2025年7月号
シリコンバーで話題の次世代ものづくり都市「ソラノ・ファウンドリー」とは?

シリコンバレーレポート

2025年7月17日、シリコンバレーから車で1時間ほど北にあるカリフォルニア州ソラノ郡に、「ソラノ・ファウンドリー」と呼ばれるハイテクものづくり都市を建設する計画が発表された[i]

ただの工場地帯ではない。都市インフラ、成長性が期待される最新技術分野の製造拠点、研究開発拠点、物流、住宅といった都市機能を統合した、野心的な産業クラスター創出を目指している。

「ソラノ・ファウンドリー」は先進的な産業都市プロジェクトとして注目されており、この計画が実現されれば、米国で最大規模の次世代ハイテク・マニュファクチャリング・パークが生まれる。

[i] https://californiaforever.com/california-forever-unveils-the-solano-foundry/

「ソラノ・ファウンドリー」計画の詳細を解説

「ソラノ・ファウンドリー」は工場・研究所・物流・住宅機能が一体となった、全米最大級の統合型テクノロジーパークとなっている。

主な特徴とは?

  • 敷地面積は2,100エーカー(約5平方キロメートル)と東京ドーム180個分に相当する広大な産業開発用地。
  • サンフランシスコ(64km)やシリコンバレー(88km)、サクラメント(40km)など、主要都市からアクセス至便。
  • ユニオンパシフィック鉄道や湾岸施設と直結しており、物流ネットワークも高度に整備。
  • 2つの国家安全保障施設に近接。
    • 南7マイルにはソラノ造船所が計画されており、同ファウンドリーで製造された部品を使って自律型および従来型の船舶を建造可能。
    • 北東5マイルには、米最大の空軍機動軍基地である「トラビス空軍基地」があり、軍との連携も視野に。

図1. ソラノ・ファウンドリー(California ForeverのWEBより)

 

さらに、以下のような点にも工夫がなされている。

  • スピーディーな製造拠点立ち上げを実現する許認可環境。
    通常、製造業の拠点開発は、許認可に長時間かかってしまうが、ソラノではスタートから90日で許認可が得られるというスピード対応を予定している。行政手続きの大部分を事前調整し、許認可の行政手続きや電力等のユーティリティ接続の事前処理等の90%を先回りで整備する。各テック企業が極めて短期で工事着手可能となり、早く動けるよう、スタートダッシュを後押ししてくれる。また、規模拡張にも柔軟に対応、数百万平方フィートまで拡大でき、他の場所を探す必要もない。
  • 「職住近接」を実現する未来型スマートシティ構想
    ソラノ・ファウンドリーは単なる産業用地ではなく、都市機能を備えたスマートコミュニティとしての開発も進行中である。敷地内には、約15万〜17万戸の住宅建設を計画している。シリコンバレーは住宅危機に直面しているが、ソラノでは工場・研究施設に通勤可能な職住近接型の都市構造を目指している。歩行者や自転車に優しい街、ストリートカーの導入、地中海風の建築デザインなどを取り入れる。
  • クリーンで安定したエネルギー基盤
    環境負荷の低減とエネルギー安定供給の両立にも注力してる。2ギガワットの再エネ発電と5,000GWhのバッテリー蓄電容量を整備予定である。地元のグリッドに頼らず、安くて安定した自己完結型エネルギーを実現する見込みである。ESGやサステナビリティを重視する企業にとって理想的な環境となっている。

どのような企業がかかわっているのか?

事業用地のリースは世界的な不動産大手「JLL」が担当する。現時点では具体的な企業名の発表はないが、呼び込もうとしているのは、成長が期待される産業である。具体的には、EVやドローン企業、自動倉庫/ロボティクス系スタートアップ、自動運転や電動モビリティなどの次世代モビリティ、蓄電池や太陽光などのクリーンテック系企業、宇宙インフラ企業、スマート農業アグリテック企業、防衛関連スタートアップなどが主要ターゲットとして検討されている。まさに未来産業のオールスターが集結する予定となっている。

そして、この巨大プロジェクトを動かしているのは「California Forever」で、その投資家には、LinkedIn共同創業者Reid Hoffman、セコイヤキャピタル(VC)のレジェンドであるMichael Moritz、Apple元CEOの未亡人Laurene Powell Jobs、Stripe共同創業者PatrickおよびJohn Collison、Netscape共同創業者でa16z(VC)のMarc Andreessenなど、歴代の著名な起業家、投資家達が名を連ねる。

「ソラノ・ファウンドリー」誕生の背景

その昔、半導体など、シリコンバレーの躍進を支えたのは地域に構築されたエコシステムであった。シリコンバレーのエリア内(主にサンノゼからフリーモントまで)で研究開発のラボと工場が緊密に繋がり、効率の良いフィードバックループが形成されていた。生産拠点が海外に移転するにつれ、このループは何千キロもの距離にわたって張り巡らされるようになり、フィードバックに時間がかかり、サプライチェーンの強さも損なわれ、ロボットやドローンなどの高成長産業で深圳や広州など中国各地に遅れをとっている。

アメリカに製造業を復活される動きはあるが、シリコンバレー地区にはすぐに建設可能な土地がないことに加え、深刻な住宅不足に陥っているため、新しい工場は米国の他の地域に移っている。シリコンバレーを拠点とする研究開発者は、遠隔地の工場との往復に何日も費やすことを余儀なくされ、コラボレーションと迅速なフィードバックループが損なわれている。知財の流出も課題となっている。

地元住民との合意形成などの課題も

イースト・ソラノ地域の開発計画は、2023年に初めて発表された。ソラノ郡の土地は農業用途に限定されており、都市開発には住民投票による条例改正が必要である。地元住民の間では賛否が分かれており、支持者は経済的機会や住宅供給の増加を期待する一方、反対者は環境破壊や地域文化の喪失を懸念している。California Foreverは2024年11月の住民投票を目指していたが、環境影響評価報告書や開発協定の不足を理由に、2024年7月に投票を撤回した。このプロジェクトに反対する地元住民で構成される組織である「Solano Together」は、今回のソラノ・ファウンドリーの発表は「単なるマーケティングの仕掛けに過ぎない」と述べている[i]

California Foreverは環境影響評価報告書と開発協定の作成を進め、2026年に住民投票を目指している。そして、2028年頃に一部産業ゾーンでの建設開始予定、2030年代以降に街全体の段階的完成を目指す。

一方で、トラビス空軍基地との関係、環境負荷、現地コミュニティとの対話・合意形成など、解決すべき社会的課題も浮き彫りになっている。2026年の住民投票で支持が得られなければ、計画は大幅な見直しを迫られることになるだろう。

 

ソラノ・ファウンドリーは単なる製造パークにとどまらず、産業、暮らし、環境、コミュニティ、すべてを再設計する挑戦である。「新しい都市モデル」がここから始まるかもしれない。

[i] https://www.kqed.org/news/12048321/california-forever-wants-to-build-a-manufacturing-town

著者

川口 洋二氏

Delta Pacific Partners CEO。米国ベンチャーキャピタルの共同創業者兼ジェネラル・パートナー、日本と米国のクロスボーダーの事業開発を支援する会社の共同創業兼CEOなど、24年に渡るシリコンバレーでの経歴。NTT入社。スタンフォード大学ビジネススクールMBA。

 
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