2023年3月号
シリコンバレーバンク破綻とベンチャーデット

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。今号では日本でも大きく報道されたシリコンバレーバンク破綻についてお伝えします。

SNSがあおった現代の取り付け騒ぎ

シリコンバレーバンク(以下SVB)が破綻した。
SVBの本社はシリコンバレーのサンタクララ、顧客はスタートアップとベンチャーキャピタルである。低金利の環境下、テックブームでハイリターンが狙えるベンチャー業界に巨大な資金が流れ込み(2021年の米国のベンチャー投資額は過去最高の約38兆円)、SVBは急増した預金を長期の米国債に投資した。
昨年になって米FRBが利上げを開始し、ベンチャーキャピタルの投資が減少に転じ、スタートアップの資金繰りも厳しくなった。預金の引き出しに対応するため、SVBは国債を売却せざるを得なくなった。新しい国債は利率が高く、大きなロスを被った。
SVBは3月8日に18億ドルの含み損処理と22億5千万ドルの普通・優先株の売出しによる資本増強策を発表した。その2、3時間後にムーディーズがSVBの格下げを発表した。

翌9日木曜日にマーケットが開くとSVBの株価が急落、ベンチャーキャピタルがSVBから預金の引き出しを開始、投資先にも預金の引出しを指示した。ソーシャルメディアにより情報は一気に拡散し、信用不安と預金流出が加速、9日のSVBの営業終了時で、預金引出しの試みは420億ドルに達した。
10日金曜日にはSVBの株の取引が中止され、連邦預金保険公社(FDIC)がSVBの事業を停止し、預金を管理下に置いた。

シリコンバレーバンク

図1. VCが集まるサンドヒルロードにあるSVB支店 (3/18 筆者撮影)

SVB破綻直後に大型調達したベンチャーも

同行に預金口座を持つスタートアップ、ベンチャーキャピタルは9日から対応に追われた。ベンチャーキャピタルは投資先の緊急の資金繰りに対応、社員への給与の支払いといった差し迫った状況のスタートアップに対して、個人で貸し出しを申し出る投資家も現れた。

混迷を極める中、給与支払い処理等を事業とするRippling社はSVB破綻直後に5億ドル(約650億円)もの資金を調達した、というニュースが流れた。
同社はSVBの口座が凍結された金曜日、SVBに預金していた3億ドル(約390億円)にアクセスできなくなった。Rippling社のCEOは、顧客の給与資金の一部がシリコンバレー銀行で滞っていることを知り、自社の現金1 億 3000 万ドルを使い、給与処理を実行することを決断した。
Ripplingの投資家であるGreenoaks Capitalはすぐさまに行動を起こし、3億ドルへのアクセスができなくなって僅か12時間後に、昨年の資金調達と同じ企業価値で5億ドルの資金を提供することを決定、会社側と合意した。

後にシリコンバレー銀行の預金口座は全額保証されることになり、Ripplingの預金は影響を受けないことが判明し、Greenoaks社からの資金を受け入れる必要もなくなったが、同社は資金を受け入れることにした。GreenoaksはRipplingが成長していることを知っていたし、今後も成長が続くと信じており、何よりCEOの高潔さに一目置いており、今回の緊急の資金の供与の決定に全く問題がなかったと述べている。
Ripplingは年換算ベースで100億円以上の売上があり、売上は倍増している優良企業で、Greenoaksは今回の資金供与により、自社の持分を4%増加させることができたという。

ベンチャーデットにビジネス・チャンス

SVBが破綻してビジネス機会も生まれている。SVBの真骨頂であったベンチャーデット(貸付)で、特にノンバンク系のレンダーが勢いを増しているようである。
破綻前のSVBのベンチャーデットの貸付条件はノンバンクのレンダーに比べてベンチャー側に有利で、ノンバンク系は苦戦していた。今回のSVBの破綻でデットの資金が縮小するため、レートは必然的に高くなり、ノンバンク系のレンダーにチャンスが到来、また、より魅力的なリターンを狙える状況になった。さらに、スタートアップ側には銀行はSVBと同じ問題を抱えているのではという危惧もあり、ノンバンク系を好むようになった。

SVBも米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下になった翌日にはベンチャーデットを再開すると発表した。また、複数の大手プライベートエクイティの企業がベンチャーデットのアセットの買取りを検討していると報告されている。

SVB破綻で生まれたベンチャーデットの機会だが、金利の高騰でスタートアップはベンチャーデットを利用するのが難しくなる、という見方もある。
ベンチャー投資環境の悪化により、ベンチャーデットの熱は冷めるかもしれない。ベンチャーデット以外にも、SVBがベンチャー業界に果たしてきた役割は大きく、ベンチャーキャピタルやスタートアップの中には再びSVBに預金を戻すという動きもあり、今後の動向が注目される。

(以上)

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