2022年11月号
「景気後退でも成長を続ける女性向けバーチャル・クリニック」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。今号では女性特有の健康問題を支援し、創業から7年でユニコーン企業へ成長したスタートアップを紹介しています。

 

景気の減速感高まる米国で大型資金調達に成功

メタ(フェースブック)、ツイッター、アマゾン等、米国大手IT企業で大量解雇が相次いでいるが、女性と家族向けデジタル・ヘルス・クリニックのメーブンは今月、高い企業価値での大型の資金調達に成功した。
多くのスタートアップがコスト削減に奔走する中、メーブンの創業者兼CEOのケート・ライダー氏は今回調達した資金は事業の成長のためにつぎこむ、と強気である。

メーブン

 図1. メーブンの創業者兼CEOのケート・ライダー氏(同社ウェブページより

 

女性を第一に考えたヘルスケア・プラットフォーム

ニューヨークに本社を置くメーブンはマイクロソフト、ロレアルなどの企業を通じて、社員への不妊治療、養子縁組、育児、小児科、更年期障害などのサービスをスマホアプリ等でバーチャルに提供している。

ケート氏はCNBCのインタビュー[1]で「私たちのプラットフォームでは、養子縁組のコーチ、代理出産のコーチ、産婦人科医、助産師、ドゥーラ(妊娠、出産、産後のサポートをしてくれる専門家)など、さまざまなタイプのケアプロバイダーにアクセスでき、10~20分以内に迅速なサポートを受けられるほか、同じ生活体験を持つ信頼できる人々に話を聞くことができます。女性や家族の健康は、常に十分なサービスを受けているとは言えず、女性を第一に考えたヘルスケア・プラットフォームです。」と述べている。

[1] https://www.cnbc.com/2022/10/26/maven-women-focused-health-startup-is-booming-in-post-roe-world.html

メーブンのバーチャルクリニック

図2. メーブンのバーチャル・クリニック(同社ウェブページより)

 

ケート氏がメーブンを始めようと思ったきっかけは、彼女自身の医療に対する挫折やトラウマだったという。流産を経験した彼女は、「迷い、落胆し、なぜこんなに痛くて体に負担のかかることが、従来の医療の枠外と考えられているのか理解できなかった。」と自身のブログに綴っている。

今、メーブンは女性向け遠隔医療で最大規模に成長し、世界中175以上の国で1,500万人がメーブンを利用している。30言語に対応し、利用者は14ヶ月前から5倍に増加した。最近は低所得者及び障害者等に対して米国連邦政府、州政府によって提供される「メディケイド」の利用者にもサービスの提供を開始した。

創業7年でユニコーンスタートアップへ

メーブンは2014年に創業後、7年でユニコーンスタートアップの仲間入りを果たした。今年、11月に13億5千万ドル(約1,900億円)の企業価値で9千万ドル(約126億円)の資金を調達したと発表、スタートアップへの投資環境が悪化し、多くのユニコーンの企業価値が低迷するなか、同社の企業価値は昨年夏の10億ドルから35%上昇した。米最大の薬局チェーンのCVSヘルスのコーポレート・ベンチャー・キャピタル部門も投資に参加した。
ケート氏は、これまでの資金調達では自分達が解決しようとしている問題について投資家への啓蒙が必要だったが、今回の資金調達でははじめてそれが必要なかった、と語っている。

ケート氏は世界中の女性と家族が自分達のサービスを必要としており、成長機会への投資の必要があり、今回調達した資金を万が一のためにとっておくとか保守的に使うことはないでしょう、と述べており、今後の成長が期待される。(以上)