2021年12月号「旅行関連ベンチャー」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。
コロナで大きな転換を迫られた旅行業界。これを機に登場・拡大しているアメリカのサービスを紹介します。                   

個人の旅行プランが売れる仕組み

パンデミックで旅行業は大きな痛手をこうむったが、この環境の変化をチャンスと捉え、さまざまなスタートアップが台頭している。

コロナ禍、旅行代理店に足を運ぶのが難しくなり、TikTok、インスタグラムやYouTubeの旅行関連の動画、写真を見て、その投稿者に直接連絡を取り、旅行先やプランを決める人が増えている。

Thatch社は、自分の旅行の記録、体験等をソーシャルメディアで発信する情報提供者「トラベル・クリエーター」が収益を得て、その情報により利用者もより良い旅行が体験できることを目指す。Thatch社の無料のモバイルアプリを使えば、トラベル・クリエーターは情報のキュレーション、共有、旅行のヒントやオススメの旅行スケジュール等を売ることができるようにする。Thatch社はクリエーターの収益のわずかな分前に預かる。2021年8月にNetflixの共同創業者等からシードで約3億円の出資を受けている。

 

 

煩雑化した旅行手続きを新たなビジネスに

旅行の販売促進ツールを開発しているベンチャーもある。コロナ対策で、特に海外旅行の手続きが複雑になった。例えば、ワクチン接種証明書、72時間前のPCR検査や陰性証明書、誓約書等の提出や隔離期間等、国ごとに入国条件が異なり、またコロナの状況に応じて条件が頻繁に変更される。

カナダのSherpa社はこれらの情報を集中管理し、旅行サイトにAPIやホワイレーベルのウェブアプリで提供している。エクスペディア、アメリカン航空、ルフトハンザ航空、ブリティッシュ・エアウェイズ等がSherpa社のサービスを利用しており、毎月、10億以上のAPIのリクエストを処理している。

また同社ではコロナ関係以外にも、就労ビザでの入国手続き等の情報を提供している。今後は顧客の旅行サイトと連携を深めていき、例えば、付加サービスとして、入国手続きの資料の申請のデジタル化を進める。これらの付加サービスは有料とし、旅行会社にとっては新たな収入源となる。現在は主に米国企業を対象にしているが、ヨーロッパでの利用も増えている。2021年8月に約11億円をTrue Ventures等から調達した。

自分らしくかつ効率的な旅の計画を支援

2019年に創業されたシリコンバレーのWanderlog社は旅行の計画が簡単、効率的にできるモバイル/ウェブアプリを開発している。

このアプリでは、利用者が情報を取り込んで最適な旅行の計画を立てることができ、訪問したい場所のリストを追加すれば、そこへ行くためのベストな方法を提案してくれる。また、GoogleやYelpによるレストラン・レビューも表示され、利用者が検索する手間がなくなる。

電子メールをリンクすれば、そのメールに来た飛行機やホテルの宿泊情報が自動で反映され、利用者にあわせて訪問地を推薦してくれる。また、グループでの旅行の計画について参加者間で確認したり、コメントしたりすることが簡単にできる。

同社のサイトでは、おすすめの旅程モデルを見ることができる。Wanderlog社は毎週数千の旅行を支援しており、無料版に加え、サブスク版も提供している。

国内旅行を活発化

Headout社は近場での魅力的なアクティビティの情報を集め、国内旅行を活発化させようとしている。近場での、その日のツアー、イベント、アクティビティを探すことができるマーケットプレイスのアプリを提供しており、2021年1月から利用が8倍に増加し、7月にEBITDAで黒字化した。

同アプリでは、コロナにより遠方への旅行ができなくなり、地域に根ざした目新しいアクティビティが増えてきた。また、コロナ前には、同社が扱う多くの情報がネットに上がっていなかったのだが、コロナによりネットでの情報提供が増加、Headout社は情報の表示を標準化して利用者が見やすいようにした。同社は2021年9月にAirbnb、Uber等へ投資したGlade Brook Capital等から約13億円の資金を調達したと発表。300都市へ拡大予定で、世界中に150名以上の社員を雇用する予定である。

 

(以上)