経営課題への処方箋 Vol.1「経営の地図」とは?

経営者向けコラム

経営における課題には多くのテーマが存在しますが、経営コンサルタントである私が最近現場で直面するものは主に下記の5つのテーマに集約されます。

1、トップマネジメント層の育成  2、事業承継・資産承継  3、ミドルマネジメント層の育成  4、人事制度構築・運用・定着化  5、社内外におけるブランディング 

本連載では、この5つのテーマのポイントともいえる「経営の地図」の可視化・共有化についてお伝えしてまいります。

社内やりとりにおける“あるある”な問題とは?

いきなりですが、ちょっと現場でのやりとりの例をみていただき、私が考える経営の現場における「今日的な課題」の本質をお伝えしてみたいと思います。

 さて、これらのやりとりをみていただき、どのような印象を持たれたでしょうか?どれも少し極端な例ですが、意外と「あるある」なこれらの事例。それぞれのやりとりに感じる“違和感”の正体が何かわかりますか?

 それは、「目的」が明確になっていないこと。

社員総会を開催する「目的」。営業会議を開催する「目的」。不良発生報告書を作成する「目的」。「目的」がないと「手段」が決まらないはずなのに、なんとなく会話が流れていくことって意外と多いのではないでしょうか。 

 たとえば、上記の3つ目の例にある不良発生報告書に関して言えば、作成して提出すること自体が「目的」なのではなく、不良発生原因(真因)の究明と不良の再発防止を「目的」として作成するものです。3日以内に提出するというルールに意識がいき、本来の「目的」がどこかにいってしまっているのは問題です。

その他の事例についても、本来の「目的」が何であるか考えてみてください。

目的なき仕事がもたらす悲劇とは?

 どんな仕事にもその大小に関わらず、必ず「目的」があります。「目的」は言い換えると「誰のためにどのような付加価値をつけるためにやるのか」ということになります。

「目的」のない仕事は、仕事ではなく単なる“作業”となります。やっかいなことに、“作業”では、「手段」の最適化である「工夫」が生まれず、決められた“作業”をただこなすだけが「目的」化してしまうことが多々あります。

 「長」と名のつくリーダーは、ミッションの大小に関わらず、仕事の指示をする際には必ず「目的」を伝えなければなりません。さらに、「目的(何のために)」に加えて「目標(どこまで=どうなったらその仕事が完成することになるのか=ゴール)」も伝える必要があります。また、メンバーの立場であっても、リーダーに指示された仕事の「目的」が不明確なときは、必ず仕事の「目的」を確認しましょう。もちろん、「目標(どこまで=どうなったらどの仕事が完成したことになるのか=ゴール)」を確認することも必要です。

 現場で発生するムダやミスの原因の多くは、この「目的」の共有と意思疎通の不足にあるといっても過言ではないと思います。そんなムダとミスの増加はコストの増加につながり、付加価値を生まない作業が増えるという悪循環を産み出し、当然、売上の減少にもつながっていきます。

また、そのような現場では作業量や手間暇が増える一方で成果(利益)にはつながらないため、「職場」を確実に不機嫌にしていきます。不機嫌な「職場」では従業員の「やる気」は喪失し、行きつくところは退職者の増加、すなわち離職率の上昇です。

このように、チームの共通の判断軸である「目的」の共有と意思疎通の不足は悪循環と悲劇をもたらします。

リーダーの仕事とは、目的を明確にして成果を出すこと

さて、「目的」には大きく分けて5つの階層があります。

①経営の「目的」 ②事業の「目的」 ③業務の「目的」 ④工程の「目的」 ⑤タスクの「目的」

 仕事においていちばん大きな単位は「経営」であり、「タスク」がいちばん小さな単位になります。抽象度の高い「経営」の「目的」がブレイクダウンされていって、具体的な「タスク」の「目的」とつながることになります。つまり、現場で仕事を円滑に進めるためには組織のメンバー全員が「経営」の目的を正しく理解できていることが大前提となります。

ただし、抽象度が高いということは、言葉の定義や解釈を十分に行わない限りメンバーによって理解が異なってしまいます。また、理解しただけでは「他人事」。共感したとしてもまだ「他人事」。納得・腹落ちして初めて「自分事」になります。理解とは内容の意味を「分かる」ことです。共感とは内容について「賛成する」ことです。納得・腹落ちとは内容について「成果につながりそうなので自らも実践してみようと考える」ことです。

 メンバーの理解、共感と納得・腹落ちの間には大きなハードルがあります。メンバーの納得・腹落ちのためには個々のメンバーの価値観との擦り合わせが必要であり、価値観が多様化する現代において、いきなり納得・腹落ちにつながることは稀です。

経営者・役員をはじめとする上層部のリーダーは、経営において「改革者」であるべきです。一方、現場のメンバーの立場としては「今のやり方やルールを変えたくない」といった「現状維持」のマインドが通常です。「変化を恐れる」メンバーが、「改革者」であるリーダーの言葉に納得・腹落ちするためには、リーダーが率先垂範してメンバーに「想い」を語り、その「想い」に共感したメンバーを巻き込んでチームとして実践し、成果につながったときにはじめて「このリーダーの言っていることには一理ありそう」と納得・腹落ちし始めるのです。

 リーダーの仕事とは、「目的」「目標」を明確にし、メンバーに理解・共感・納得させ、「目的」「目標」に合った最適な「手段」を立案しつつ、メンバーと一緒に考え、共有、実行し、軌道修正しながらチームで成果を出す(PDCAを回す)ことです。このPDCAサイクルを回すことに「リーダーシップ」と「マネジメント」の本質があります。

経営の地図を可視化しよう

 現場では、①の経営「目的」を最上位とする5つの目的の階層を判断軸として、「手段」である業務の「プロセス」とそこに投入される「インプット」、すなわち「情報、ヒト、モノ、カネ」が『流れ』ています。そして、「アウトプット」としての付加価値(目的の結実)をお客様に提供して、結果として売上となり利益となって、社内での分配や蓄積、または新たな投資につながり企業は成長していきます。

この①の経営「目的」を軸とした「手段」と「提供価値」のストーリーを、私は【経営の地図】と呼んでいます。さらに、【経営の地図】は一回描いたらOKではなく、①の経営「目的」を不変として、お客様・協力企業・競合企業といったミクロの外部環境、および、政治・経済・社会・技術・自然といったマクロの外部環境の変化に常に適応して最適化していく必要があります。

 この【経営の地図】をリーダーが自身のチーム内で可視化し、共有化し、成果を出せるようにすることにリーダー育成の本質があると思います。
リーダーシップやマネジメントの基本的な知識はもちろん必要ですが、リーダー自身が一同に会して連携し、会社を“丸裸”にして【経営の地図】を可視化することではじめて、社長が掲げる①の経営「目的」を咀嚼した②~⑤の「目的」を、リーダー自身のフィルターを通してメンバーに伝達することが可能になります。

次回のトピック

 次回は、組織(チーム)における【経営の地図】の可視化、共有化の具体的な方法をお伝えします。
また、次々回以降は、冒頭で挙げた5つの各テーマごとに、組織(チーム)における【経営の地図】の可視化、共有化がどのようにつながり、どうすれば各テーマの課題解決につながるのかをお伝えできればと思います。

執筆者


國谷 真(くにたに まこと)中小企業診断士
アート・オブ・ロジック株式会社 代表取締役

『経営コンセプト』Story for Success
『社名の由来』<ロジック>:経営の「原理原則」と「論理」を踏まえ、<アート>   :「戦略ストーリー」の「可視化・共有化・実現化」を支援します