2026年4月号
日本企業が静かに米住宅市場を席巻?

シリコンバレーレポート

完成まで3年以上!?米国の住宅建築

米国では家を建てるのに日本では考えられないほど時間がかかる。特にカリフォルニア州は全米で最も時間がかかる州のひとつで、一戸建てを建設する場合、通常1年から2年、ときには3年以上かかる場合もある。カリフォルニア州の場合、耐震・防火・環境などの厳格な建築規制があるのが時間がかかる理由の一つだが、他州でも土地取得、許認可、資材調達、職人確保、といった理由で多大な時間が必要となる。一方で、日本の住宅建設は、工場生産(現場で作るというより、組み立てる)、ミリ単位の精度、耐震性、断熱性、IoT標準装備など、米国よりはるかに進んでいるように見える。そんな中、日本式の住宅建設が次第に米国に入り込んでいる。

日本の住宅メーカー、米国市場でM&A攻勢

2026年3月20日、大和ハウス工業は米国の西海岸で戸建住宅事業を行うTrumark Companiesを通じて、ワシントン州で戸建住宅事業を行うJK Monarch Enterprisesの戸建住宅事業を買収した[i]。大和ハウス工業は米国の東海岸、南部、西海岸、各地域において戸建住宅会社のM&Aをこれまでに8件実施し、営業・施工体制を整備しながら事業エリアを拡大している。2月23日には、大和ハウス工業が所有するスタンレー・マーティン・ホームズが、カロライナ州で強いユナイテッド・ホームズ・グループを2億2,100万ドルで買収することに合意したと発表した。

[i] https://www.daiwahouse.co.jp/about/release/house/20260323091751.html

JK Monarch社の住宅商品例

図1. JK Monarch社の住宅商品例(同社WEBより)

2月13日には、住友林業は、フォーチュン1000社で715位にランクされている大手公共住宅建設会社であるTri Pointe Homes(トライポイント・ホームズ)を45億ドルで買収することに合意したと発表した[ii]。3月10日、飯田グループホールディングスは、子会社の一建設がユタ州に本社を置く住宅建設会社Wright Homes(ライト・ホームズ)グループの事業会社3社の持分を51%取得し、子会社化すると発表した[iii]

ResiClubによると、トライポイント・ホームズおよびユナイテッド・ホームズ・グループの買収が完了すれば、大和ハウス、積水ハウス、住友林業の3社の米国における一戸建て住宅建設市場における合計シェアは、少なくとも5.5%に達する見込みである[iv]

[ii] https://sfc.jp/information/news/pdf/2026-02-13_05.pdf

[iii] https://www.hajime-kensetsu.co.jp/news/2026/58743/

[iv] https://www.resiclubanalytics.com/p/japanese-firms-buying-spree-american-homebuilders-keeps-daiwa-house-trumark-jkmonarch

「家が売れない日本」と「家が足りない米国」

なぜ、日本の企業は米国の住宅建設会社を買収しているのか。まず、日本の国内の状況を見ると、人口減少と高齢化が急速に進んでおり、長期的な住宅の成長が見込めず、住宅建設会社の売上は急激に縮小すると予測される。一方、米国では、米国では、リーマンショック後に住宅供給が落ち込んだ影響で、現在も400万から600万戸の住宅不足が続いており、需要面では、ミレニアル世代やZ世代の住宅購買層が存在し、底堅い住宅需要が見込まれている。安定した長期的な成長を求める日本企業にとって、米国の住宅建設は追い風となる。

ただし足元では、米国では住宅価格の上昇や住宅ローン金利の高止まりにより、住宅の購入負担が高まり、さらにイラン戦争、関税政策によるインフレ再燃への懸念や雇用や景気の先行き不安から消費者心理も悪化している。このため、住宅購入を先送りする動きが続いている。特に若年層では住宅購入が難しくなっており、初めて住宅を購入する人の年齢中央値は40歳と過去最高に達している。短期的には市況の低迷が続くと見られるが、中⾧期的には人口と世帯数の増加を背景に、米国住宅需要は底堅く推移すると考えられる。日本の建設会社にとっては、国内市場の成長が緩やかなため、米国市場が短期的に低迷しても、中長期的な視点で継続的に取り組みやすい環境にある。

米国の住宅建設業界の構造も、日本企業にとってM&Aを進めやすい要因となっている。米国では大手を除き業界が細分化されており、資本力のある企業が、地域ブランドや経営陣を維持したまま地元ビルダーを統合しやすい環境にある。住友林業や積水ハウスも、こうした特徴を踏まえ、資本やグローバルなノウハウを提供しつつ、現地主導の運営を重視している。例えば、地域に根ざした土地取得などは、現地の経営陣に任せる。この仕組みにより、財務・経営面で支援しながら、各社の文化を維持することが可能になっている。また、日本の企業は、低い借入コストを活用できるため、海外企業の買収で有利な立場にある。

日本式プレハブ×AI、住宅建設はどう変わるか

住友林業は、住宅業界で問題になっている「職人が足りない」「人件費が上がっている」「工期が長くなる」といった課題に対応するため、アメリカで新しいやり方を進めている。具体的には、家の壁や床、屋根の部材を工場であらかじめ作り、それを現場に運んで組み立てる仕組み(FITP:Fully Integrated Turn-key Provider))を自社グループで一貫して行う。この方法により、施工が効率的で安全になり、工期が短くなり、廃棄物も減らせる。また、供給体制(サプライチェーン)も安定させる狙いがある。従来のアメリカは現地で一から建てる方法が主流だが、日本のプレハブ方式を取り入れることで、より早く家を完成させられると期待されている。

米国スタートアップも日本の住宅建設会社と同様に、現状の課題解決に取り組んでいる。2025年の第三四半期で建設分野のスタートアップに44億ドルもの資金が流入しており、これは前年同期に比べて66%増である[v]。投資家が注目しているカテゴリーは、自律建設機械、テックを活用した住宅建設、モジュラー・プレファブ住宅、AI許可申請・施工管理、住宅管理AIなどである。例えば、Bedrock Robotics社は自律建設機械を開発しており、2026年2月にシリーズBで、Nvidiaの投資会社等からユニコーン(17億5千万ドル)の評価額で、2億7千万ドルもの資金を調達した。既存の建設機械(まず掘削機から)に後付けで自律運転システムを搭載するモデルである。Waymo出身のエンジニアが創業した。

PermitFlow社は、AIで建設許可申請プロセスを効率化する。2025年12月に、シリーズBで有力ベンチャーキャピタルから5千4百万ドルを調達した。許可手続きは複雑・低速・不透明・信頼性が低く、許可取得に時間がかかる。同社は事前調査から申請書類作成・提出・自治体コメントへの対応・許可取得まで、許可プロセスを丸ごとカバーするエンドツーエンドのワークフロー自動化ソリューションを提供、許可取得速度を2.5倍に短縮、施主へのROIは5倍に達するという。日本式プレハブ・工業化住宅技術を米国スタートアップと連携すれば、供給スピードが劇的に向上する可能性もある。

[v] https://www.landbase.com/blog/fastest-growing-construction-tech-companies

PermitFlow社の許可申請プロセスソリューション例

図2. PermitFlow社の許可申請プロセスソリューション例(同社WEBより)

米国住宅市場は次世代住宅産業の実験場

米国の住宅建設は今、大きな転換期を迎えている。日本の大手建設会社は、国内市場の縮小を見据え、米国市場への長期投資を加速させている。一方、米国のスタートアップは、許可申請の自動化、工場生産型住宅、自律建設機械など、従来の非効率を根本から解消しようとしている。日本式の「工場で作り、現場で組み立てる」モデルと、AIやロボティクスを駆使する米国スタートアップの技術が融合すれば、住宅供給の速度とコストに革命的な変化をもたらす可能性がある。短期的な市況の波はあるものの、米国の住宅不足という構造的な課題は変わらない。米国住宅市場は、日本企業による単なるM&Aの話にとどまらず、次世代の住宅産業のあり方そのものを問い直す、大きな実験場となりつつある。

(以上)

著者

川口 洋二氏

Delta Pacific Partners CEO。米国ベンチャーキャピタルの共同創業者兼ジェネラル・パートナー、日本と米国のクロスボーダーの事業開発を支援する会社の共同創業兼CEOなど、24年に渡るシリコンバレーでの経歴。NTT入社。スタンフォード大学ビジネススクールMBA。

お役立ち資料

DXの終焉と 新たな破壊サイクルAXの始まり
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