中小企業のための新規事業の進め方(第9回)
~ビジネスプランを進めるステージゲート法~

今回は新規事業のビジネスプランの実行にあたっての大事な考え方のひとつ、「ステージゲート法」について解説をします。
簡単にいうと、新規事業の成否は不確実であるので、企画を段階的に評価しながら新規事業開発を進める考え方です。手戻りを減らし無駄なコストの発生を防ぎ、潜在的な問題も確認しながら、堅実に進められる方法といえます。
1.ステージゲート法とは
2.新規事業開発のステージ
まず、ステージの標準的な例を以下に挙げてみます。この例は、本連載の記事の流れ(ビジネスアイデア→ビジネスコンセプト→ビジネスモデル→ビジネスプラン)に沿ったものです。また、ビジネスプランの実行というだけでなく、最初のアイデアの段階からカバーできる考え方でもあります。
ステージ | 主な内容 |
---|---|
アイデア収集・創造 | 新規事業や製品のアイデア有望なアイデアを選定する |
ビジネスコンセプト策定 | ビジネスコンセプト(何を、誰に、どのように)策定、顧客の潜在ニーズ確認、市場動向や 競合の確認など |
ビジネスモデル策定 | ビジネスモデルの構築(事業計画の策定)、競合との差別化ポイントの明確化、製造コス トの算出、収益・費用の見込み |
ビジネスプランの策定 | 新規事業計画の策定。技術的な課題の解決、オペレーション、収支見込の詳細化、課題 の明確化など |
試行提供テスト | プロトタイプを試行提供して製品やサービスのフィードバックを得る。社内メンバーによる 品質・性能チェック、フィールドテストなど |
市場投入拡大 | 製品やサービスの発売、マーケティング活動、販売網の構築、生産量の拡大など |
ステージの分け方は、ケースバイケースです。例えば、ビジネスプランの策定から市場投入に至る各ステージをさらに細かく分けることもできます。具体的には、「試作品の製造」「量産に向けた設備導入」などといったステージに分けることも可能です。大事なのは、重要な段階(方向性やリソースの投資を判断する段階)でゲートを設けてチェックするということだと考えてください。
なお、試行提供テストのステージの後には、製品やサービスを改良するため「試行提供テストステージ」が繰り返されるような場合もあります。
3.ゲートでのチェック項目
さて、ステージ間のゲートではステージの成果を評価するわけですが、何をチェックすればよいかを考えてみましょう。標準的なチェック項目を以下に記述してみました。これらは製品やサービス自体のスペックやデザインというだけではなく、経営的な視点で見直すことに主眼が置かれています。
(1)戦略的適合性
新規事業が企業の全体の戦略と一致しているかどうかということを確認します。アイデアのピボットを繰り返すうちに、自社の強みがあまり発揮できないような方向に進む場合もあります。その時には、方向性の修正をする、またはそのアイデアをあきらめて別なアイデアで開発を進める方向転換も必要になってきます。
(2)競争優位性
特にビジネスコンセプトの策定の段階では、潜在顧客に対してきちんと価値が提供できることをチェックします。もちろん試行的なフィードバック調査によって、すでに優位性や顧客値が確かめられていれば問題はありません。ただし、他社に類似の製品やサービスがある場合には、差別化をさらに深める方向で開発を進める必要があります。
(3)市場の魅力
潜在顧客の声に基づいたアイデアで開発をしていれば、これまでの連載で述べたように、ニッチでもある程度の市場は見込まれるためそれを確認します。もちろん、市場が大きく成長するタイミングでそのシェアの一部を狙えるような場合は、特に有望な市場だと考えられますが、今後競合が出てきそうかどうかも考慮したいところです。
(4)実現可能性
これもすでにこれまでの連載で述べていますが、技術的対応に加えて、材料の安定確保などもチェックポイントです。また、ピボットを繰り返すうちに製品やサービスのスペックが変更されますが、コストが高くなりすぎない対策も考慮しておくべきです。
(5)強みの確認
製品やサービス自体の強みだけではなく、会社視点での強みの活用を考える必要があります。会社の既存のリソースや培った技術が使えるので、他社と比べて価値ある機能が実現できる、あるいはコストが抑えられるといった、製品やサービスの強みを、会社の強み(能力も含む)と結びつけて明確化しておくことが大切になります。
(6)財務視点
財務的な利益やリスクなどを見直します。市場規模や利益見込み、投資額などを都度見直します。これらは、ビジネスモデル以降のステージで徐々に明確になってきます。
初期投資が大きすぎないか、売り上げが伸びない場合にはどのくらいの累積損失が発生するのかなどを把握することが大事です。投資額・累積の最大損失額などを想定しておき、なるべく段階的に投資をしていく判断をすることが重要になります。
上記の(1)から(6)までの項目は、すでにこれまでの連載でも検討してきたことです。つまり各ステージで検討してきたことになります。ですから、ゲートでは既に検討済みの事業企画を再度チェックして必要な方向修正を図ることを意図しています。また、特に(6)財務視点から、どの程度の投資額がかかりそうか、黒字化までの累積損失の見込みはどのくらいかなどは、会社の資金に直接影響を与えるため、リスク管理上大変重要です。
さて、これらの6つの視点でチェックをかけて、さらに開発を進めることが難しそうな場合には、別なアイデアに切り替えます。つまり、再度アイデア収集の段階(第1回や2回)に戻ってやり直すことになります。可能性が低い場合に方向転換することは、余計な時間やコストを防止できたことになります。事業開発のリソース(人・物・資金・情報)、そして熱意は無駄にしないようにしてください。
4.まとめ
今回は、ビジネスプランを実行に移す段階での、ステージゲート法という考え方を紹介しました。これは事業開発をステージに区分して、そのステージが終わるごとに、ゲートを設けて事業企画の内容をチェックするという方法です。これによって、企画の実現が難しければ別のアイデアに切り替える、開発の方向性を変えるなどの判断ができます。そして、チェックの都度次のステージに移行できるため、開発を進めるためのリソースの追加投資の判断も可能になります。これは、開発の不確実性に対処する堅実な方法と言えます。
次回以降も、新規事業のマネジメントに有効な経営学の知見をごいくつか紹介したいとおもいます。
著者
矢本 成恒氏
名古屋商科大学経営大学院教授(3つのMBA国際認証校)、日本開発工学会(日本学術会議登録団体)副会長、東京人財育成株式会社取締役、中小企業診断士
NTT持株会社戦略部門担当部長、ベンチャー起業・経営などの実務実績、経営コンサルタントの実務経験と学術研究をもとに、新規事業や企業経営に関する講演や研修を実施している。
東京大学博士(工学)、東京大学卒業、筑波大学 MBA、ハーバード経営大学院(受講生中心教授法プログラム修了)

ステージゲート法は、新規事業開発(新製品・サービス開発)を、複数の「ステージ」というプロセスに分けて、そのステージの間に「ゲート」というチェックポイントを設け、段階的にチェックをしながら開発を進める方法です。各ステージの成果をゲートで評価し、事業に内在する問題点やリスクをチェックします。そして、進める・戻る・やめる・軌道修正して進めるなど明示的に判断します。
これにより、新規事業の不確実性を低減しながらリソースや時間の無駄を防ぎ、効率的に事業化を進めることができます。
通常は、新規事業開発の案件のプロジェクトが複数ある場合に、有望な開発プロジェクトを絞り込み、そこにリソースを集中させるために使われる方法です。しかし、不確実性に対処する優れた方法であるため、開発案件がひとつしかない場合でも効果があります。
