中小企業のための新規事業の進め方
~ビジネスアイデアの作り方~(第1回)
大きく変化するビジネス環境の中、これまでの事業だけでは不安な経営者も多いでしょう。新規事業を立ち上げたいという声もよく聞きます。しかし、大企業のように経営資源が豊富にあるわけではない中小企業は、いったいどのように進めていけばよいのでしょうか?
このコラムでは、事業を進めていくためのポイントを数回にわたってご紹介したいと思います。
他社より優位に立つには新規事業開発が必要
新規事業企画のプロセスとは?
経営学の研究からは、いくつかの知見を提示できます。例えば、新規事業の不確実性に対処するために、小さくスタートして次の段階に進むごとに経営資源を徐々に投入する方法、ネットワークを作ってお互いに連携してアイデアや経営資源を補い合って事業を進める方法などがあります。また、新規事業のアイデアは、自ら探すだけではなく、お客様の利用例からヒントをもらう方法もあります。このような新規事業の進め方のポイントを、順次ご説明していきたいと思います。
まず、新規事業を進めるプロセスを整理したいと思います。大まかにいくつかに分けることができます。分け方はいろいろありますが、本コラムでは、①アイデア収集、②コンセプト検討(ビジネスの概要の検討:何を、誰に、どのようになど)、③ビジネスモデル検討(お金の流れや取引なども考慮したビジネスの仕組み)、④ビジネスプラン(事業計画)作成として解説します。今回と次回は①アイデア収集についてそのポイントを説明します。
1.自社の強みからアイデアを考える方法
新規事業のアイデアを検討する場合、多くの経営者は、自社の強みを活かして製品やサービスを開発しようと考えます。これは自然で当然ともいえるアプローチです。
例えば、2023年版中小企業白書では、「中小企業のイノベーション」という章を設けて、新規事業の事例を多数掲載していますが、このようなアプローチの事例が多くみられます。「株式会社アルファーテック」の事例では、ドットプリンターのピンなどに使われる「細い領域のピン製造技術」を、医療カテーテル製品に活用したことが記述されています。これは、この会社の強みである製造技術が応用できる領域を探し、結果として医療分野の可能性を発見して、製品開発をした事例です。
(出典は「中小企業白書・小規模企業白書2023年版(中小企業庁編)」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf
しかし、自らの努力だけで、ターゲットになる用途を見つけることは簡単ではありません。医療品、食料品、機械製品……、世の中に存在する数多くの製品やサービスをすべてにわたって検討することは不可能に近いのです。だから、このような事例を多数掲載している2023年版中小企業白書においても、中小企業のイノベーションの課題は、自社のコア技術(強み)を市場ニーズに結びつけることだと述べてられています。
さて、では一体どのように新規事業のアイデアを見つければよいのでしょうか? 次項で新規事業アイデアを見つける別の方法を説明したいと思います。
2.顧客からアイデアをもらう方法
自社が強みを活用する製品アイデアを見つける努力をするだけではなく、逆に顧客側から自社の強みを活用するアイデアをもらうというアプローチについて説明したいと思います。
(1)潜在顧客からのコンタクトを待ってアイデアをもらう方法
まず、一般的な方法として、ホームページや展示会などで、強みや特徴を訴え、それを見た潜在顧客からのコンタクトを待つ方法があります。例えば、ネットの動画やホームページでわかりやすく説明し、魅力的な活用事例を提示するなどの手法です。これはもちろん多くの会社が既に手掛けている方法です。たしかに、潜在的顧客(ニーズをもつ顧客)を集める有効な方法ですが、やや受動的なアプローチですから、どれだけ多くの対象に見てもらえるかが大切です。そして、きちんと潜在顧客層にアピールするような内容が提示できているかも大切です。
(2)先駆的なニーズを持つユーザーにアプローチしてアイデアをもらう方法
しかし、このようなコンタクトを待つ方法ではなく、もっと積極的な方法があります。自ら積極的にユーザー潜在顧客の意見や工夫を収集して、製品やサービスの開発を行う方法です。これも当然だと思われるかも知れません。しかし、私は100社を超える中小・中堅企業の新規事業の取組を拝見していますが、顧客の利用例をきちんと把握できている会社はとても少ないという印象を持っています。たとえ利用例を知っていても、何に使われているかという程度であって、顧客がどんな工夫をして自社の提供した製品やサービスを使っているのかまで把握されていないのです。
新規事業のアイデアとしては、当たり前に予想される利用方法ではなく、少し変わった用途や独特の工夫をした利用例や意見が大事です。このような、いわば先駆的なニーズをもつ顧客の利用例や意見を集まると、新製品や新サービスのアイデアになります。改良程度のアイデアかもしれませんが、それでもOKです。経営学では、このような方法を、リード・ユーザー・リサーチ(先駆的なニーズや利用例をもった顧客の意見を収集・分析する)と言います。
さて、次回はこの方法について、事例を含めて解説したいと思います。
著者
矢本 成恒氏
名古屋商科大学経営大学院教授、東京人財育成株式会社取締役、中小企業診断士、日本開発工学会(日本学術会議登録団体)副会長
NTT持株会社での戦略立案、複数のベンチャー起業など、これまでの経営者・経営コンサルタントの実務経験と学術研究をもとに新規事業や企業経営に関する講演&研修を実施している。
東京大学博士(工学)・筑波大MBA・東京大学卒業、ハーバード経営大学院(参加者中心教授法)プログラム修了
自社の価値を認めてもらうには、他社とは異なる製品やサービスの提供が求められます。価格競争にならず、顧客から自社独自の価値が認められる新規事業を開発することが必要です。なお、ここでいう新規事業とは、既に他社がやっている事業を自社も始めるということではなく、新製品・新サービス開発、新しいビジネスモデルの開発などで、自社独自の事業を始めることを意味しています。経営学の研究でも、既存事業を進めるだけでは、他社より優位な地位を維持することができないという事例が数多く報告されています。
しかし、成功するかどうかわからない新規事業にチャレンジして、自社の貴重な経営資源(人・物・資金・情報等)を投入することは、大きなリスクでもあります。特に中小企業やベンチャー企業は営資資源を豊富に持っているわけではありません。このコラムでは、このようなリスクある新規事業に取り組むときのポイントを解説します。