SDGs経営塾 第2回「SDGs経営の潮流を知る」

SDGs

 私たちビジネスパーソンは、2020年からのコロナ禍を通して、時代の変化の大きな境目を体感中です。その「大きな変化の”大元”がいったい何か」に気づくことで、新しい未来と新しい経営風景が見えてくることでしょう。

 特に、SDGs経営には “将来のありたい姿”を明確に持つことが求められます。
明確な”将来のありたい姿”がある経営とそれに迷いのある経営では、次の一手のスピードが違ってきますね。
 激動のいま、皆さんは“将来のありたい姿”の明確なイメージを持たれていますか?

 本SDGs経営塾では、多くの経営者の方々に“SDGs成長経営”の指針を私の実体験を絡めながら『しる→わかる→かわる』の流れでお伝えしていきます。想像力・創造力の喚起に少しでもお役に立てれば幸いです。

 

 

地球は、人の体温にたとえると何℃?

 氷河の減少、海面の上昇、異常気象など、世界中で地球の温暖化の影響が大きくなっています。日本でもあちらこちらでも最高気温の更新や台風の被害(風害、水害、高潮害など)を目の当たりにしますね。
 さて、私はここ2~3年ほど、“2030SDGs公認ファシリテーター”として中学校・高等学校に呼ばれ、多くの学生や先生と対話してきました。
 ここで、学生に行った“SDGsワークショップ”で印象に残った一場面を紹介します。

 第一回コラムでご紹介した国連WFP「SDGsって何だろう?」のビデオを見てもらった後に、私が学生に問いかけます。
・「いま、地球は人の体温に例えると何℃でしょうか? お隣さん同士で自由に話しあってみてください」
(ご覧の皆さんも自分の考えを思い浮かべてくださいね)
一番多かった学生の答えが、38℃です。
次に私の体験をお伝えしたあとで、問いを発します。

・「それでは、地球は人の体温にたとえると、今38℃と思ってください。私は2度目のワクチン接種で、39℃まで上がってしまいましたが、このまま40℃、41℃まで上がったらどうしようと不安を感じました。地球が、人の体温で39℃、40℃の高熱に上がってしまうのは、何年後だと思いますか?
彼ら、彼女たちの反応が、
「5年後から10年後ぐらいかな」
という答えが多く、ビジネスパーソンよりも“ずっと切実”に地球温暖化をとらえています。(皆さんは、何年後だと思いましたか)
彼ら、彼女らにとって、SDGsは“環境の問題”よりも自分たちに差し迫る“命の問題”なのです。
私には、5年後から10年後という反応が“未来からの声”に聴こえました。


図1.学生の切実な声

“経済・社会・環境”の関係変化

 さて、企業現場は学校現場と違って、SDGs実践(わかる→かわる)による“成長経営の実現”が中心にあります。
 SDGsを先行実践されている経営者の認識は「五方よし」です。
それは、近江商人の“三方よし” (=「売り手よし」、「買い手よし」、「世間よし」)という理念に、「地球よし」、「未来よし」を加えた考え方です。
地球よし、未来よしの早期実現が、学生が望んでいる未来だと思いませんか。

さて、SDGs経営(=五方よし)が必要になった変化の背景はどこにあるのでしょうか。
それを、図2を使って説明します。
親亀が環境、子亀が社会、孫亀が経済です。
親亀がずっこけてしまうとその上の子亀や孫亀がこけてしまう“危うさ”を感じますね。
現在のSDGsの3分野の関係が、この図に表れています。
 土台にある気候危機(環境問題)に大きな被害があると、社会・経済は立ちいかなくなりますね。
 加えて、戦争、テロ(社会問題)があると、経済は大きなダメージを受けます。気候危機、戦争は“命”に直結してしまうことを私たちは痛感しています。

 これからビジネスパーソンは、否応なく環境・社会に向き合わざるを得なくなります。それは大きな転換なのですが、ビジネス的には、“ピンチ(危機)はチャンス(機会)”です。
 隆々とした将来の会社の姿を切望される経営者には、ピンチをチャンスに変えるSDGs経営をスタートさせることをお勧めします。

図2.親亀(地球環境)こけると皆こける

CSR(社会的責任)→CSV(共通価値の創造)→SDGs

 ここから、大切な友人(経営者)に話すように、環境・社会・経済の関係を「グリーン経営」(=環境負荷の少ない事業運営)を底流として、時系列に整理していきます。

1.CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の時代
 図3を一緒に見ながら、私が友人に説明します。
 「ビジネスパーソンだから、一番左のCSRはよく知っているよね。
 それは、環境マネジメント、フィランソロピー(社会貢献活動)など本業の周辺の利益を生み出さない活動(コスト=費用)としての位置づけなんだ。前職で自分が勤務していた1990年頃は、ボランティアとして本社周辺のゴミ拾いに参加したり、自部門のコピー枚数の削減等に励んでいたよ。
 当時は、すでに警告されている環境破壊や公害問題を先送りして、経済(孫亀)で生み出した利益の一部を、環境(親亀)と社会(子亀)に会社のコストとして還元していた時代だったんだ。
 “CSR”の世界は『守りの経営』と位置づけられると思わない?」と。
 「たしかに、CSRは利益を生み出さない経営活動の位置づけだ。ボランティア的だから会社が利益を出せなくなると、CSR活動を続けるのが難しいという根本的な問題があるよね」と友人は腕を組んで言った。

2.CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)の時代
 続けて、図3の真ん中にあるCSVについて私から友人に説明します。
 「次に登場するCSVは、経営学者マイケル・ポーター教授が2011年に提唱したもので、「経済価値(経済)と社会価値(公益)」の両立を意味しているんだ。(次回以降で詳述しますが、この両立を実現することが社会イノベーションです)
 それはこれから企業が経済的に成功するための手法で、社会問題(社会分野・環境分野)にコミットすることで、経済価値(利益)を創造する経営のことを意味している。
 その取組みを先取りして実現すれば、競争力の源泉になるということから、多くのグローバル企業の取り組みが始まったんだ。(当時、前職では新事業開発のプロジェクトリーダーとして、“CSVによる事業構想”を検討していて、そのことが後述する2015年のSDGs経営ご支援に役立ちました。CSVがSDGsの土台になります)
 自分はその時に、経済と社会・環境を別々の関係(トレードオフ)にしていた経営を、“環境・社会・経済”の3つを統合する関係(トレードオン)の経営に転換する新しいビジネスの到来と確信したんだ。
 CSRと比較すると、この“CSV”の世界は、環境・社会にコミットする「攻めの経営」と位置づけられると思うんだけれど、どうかな?」。
 「たしかにトレードオン(3つを統合)の関係を実現できれば、“五方よし”経営の取組みそのものだから、学生や社会に喜ばれ、新しい顧客や世界市場の大きな支持が得られるから、会社の利益が増大して成長するよね。
 学生や転職したい人たちからは、“就職したい会社、選ばれる会社”になるんだろうな。
 本格的に本業と環境・社会を統合する経営を検討してみるよ」と友人は言った。

3.そして、SDGsの時代
 そのあとの2015年に登場してきたのが、図3の右側の“SDGs”の世界です。
 私はSDGsとの出会いを友人に伝えます。
 「2015年は、自分が早期退職をして、新価値創造研究所を設立して1年半後だけど、東海方面のベンチャー企業から“SDGs経営へシフト(転換)したい”というご支援依頼がきたことが、SDGsとご縁を持つきっかけになったんだ」
 「今から7年前だから早かったね。さすが行動着手するのが早いベンチャー企業。どんなスキルを期待されて呼ばれたの?」と友人。

「SDGsシフトのためには、“未来を読む力”と“現状を突破するイノベーション力”の二つが求められるんだ(その理由は次回以降に詳述します)。それを駆使して“SDGs経営体実現をご支援”した成功体験が、その後の自分の生き方をも変えてしまった。それよりも、SDGsを通して2030年の成長戦略を明確にして行動することで会社の将来は大きく変わるんだ」と、友人にはSDGsが“経営戦略に直結すること”と、“必要な二つの力が求められること”を伝えました。

 2015年以来、多様な業種業態のSDGsシフト経営をご支援してきました。
それらの経験上、経営者がSDGsを導入するための前半部(しる→わかる)のポイントは、CSV(経済価値と社会価値の両立)を分母にした上で、SDGsで新しく追加された3領域(下記)に取り組むことにあると思っています。

①空間領域:“命の問題”を基点として、“環境・社会”の課題を本業で解決
 →「SDGsの17ゴール」と「本業の強み」を結合する(=イノベーション力)

②時間領域:“2030年”をゴール(として世界が合意した持続可能な開発目標)
 →「ありたい姿」を描いて、逆算してこれからの行動を決める(=未来を読む力)

③機能領域:SDGsは“立案機能”、ESGは“評価機能”
 →「PLAN・DO・CHECK」のPLAN機能がSDGs(=深く高い構想力)

 さて、ここまでで少し整理してみます。
 SDGs成長経営を実現する必要条件(前半部)は、CSV(共通価値の創造)を土台にして、上記3つの新領域を通して、“SDGsと本業”をつなげることにあります。

 これが本筋なのですが、“大変だ”という声が聴こえてきます。でも、圧倒されないでくださいね。中小企業のSDGs成長経営ご支援の経験では、少し大きく構想して、小さい打ち手で段階的に成功を積み重ねることがポイントに思います。
 私たちビジネスパーソンは時代の境目にいて、SDGsの大潮流と構造を知っておくことがきっと今後に役立ちます。経営者の皆さんの頭の中の“SDGs理解”が少しでも進みましたら幸いです。

 今回は「グリーン経営」を底流にした時系列で、SDGsへの流れを見ていただきましたが、
 次回は、上述の3領域を図解でお伝えしたいと思います。

図3.CSR→CSV→SDGs

次回のトピック

→ 「SDGsの構造」を図解で納得いただくコトがポイントです。
・“社会価値と経済価値”両立を図解
・“社会イノベーション”がSDGsの目標実現には必要
・SDGsとESGはコインの裏表

執筆者

橋本元司(はしもと・もとじ)

新価値創造研究所代表。SDGs成長経営コンサルパートナー・2030SDGs公認ファシリテーター

パイオニア株式会社で、商品設計や開発企画、事業企画などを経験後、社長直轄の「ヒット商品緊急開発プロジェクト」のリーダーとして、ヒット商品を連続でリリース(サントリー社とのピュアモルトスピーカー等)。独立後、「新価値創造」を使命として、事業再生、事業開発、人財開発、経営品質改革を行い多種多様な企業を支援している。