2026年7月号
米国次世代エリート教育の最前線:
AI時代のエリート育成「Alpha」校と18歳で1億円CEO養成「Founders」校

今年秋にニューヨーク市で開校する高校が話題になっている。「ファウンダーズスクール(Founders School)」で、年間の授業料はなんと15万ドル(2,400万円)。米国では高校は4年間あるため、卒業までのトータルの授業料は約1億円(9,600万円)に達する。単なる学問の習得は目標ではない。卒業までに生徒が100万ドル(約1.6億円)稼ぐことが求められる。もし目標を達成できなければ授業料を全額返金する。まさに「結果」を求める経営者のようなコミットメントが掲げられている。著名な起業家でありライターのナット・イライアソン(Nat Eliason)氏を招き、第1期生は約20名の新入生(9年生)を予定している。極めて限定的な環境で、次世代のイノベーターを育成することを目指す。
図1. ファウンダーズスクールのWEB:「1.6億円稼いで高校を卒業しよう」
「1日2時間の学習」でエリートを育てるAI教育・アルファスクール
AI学習と身体活動の組み合わせ
アルファスクールの午後は教師からの一方的な授業ではなく、身体活動を通して、生徒自身が課題を設定し、クリアを目指す実践の時間となっている。先生は「ガイド」と呼ばれ、生徒はガイドのサポートのもと「実生活スキル」を習得する。例えば、ロッククライミングのプロジェクトでは、単に登れるようになるのではなく、チーム全員が安全に、かつ特定の戦略を持って壁をクリアすることが求められる。登る過程で、どこに手をかけるか、恐怖にどう打ち勝つか、仲間をどう支えるか、といったことを言語化し、内省する。金融リテラシーでは、仮想通貨や擬似銀行システムを使い、貯蓄、投資、予算管理を実践する。パブリック・スピーキングでは、ニュース番組を企画・運営し、AIを用いた発声分析などで、聴衆を魅了するプレゼン技術を磨く。ボート操船では、刻々と変わる環境下で、リーダーシップと冷静な判断力を養う。特にファウンダーズスクールでは、ビジネスを立ち上げ、利益を出すことをカリキュラムの主軸に置く。市場調査から製品開発、資金繰りまでを生徒が自ら完遂する。読み書き・算数などの知識は、AIプラットフォームにより最短(1日2時間)で習得させ、AIに代替できない仲間との協力、リーダーシップ、交渉力、度胸などに残りの時間を全て投資する。学業成績はトップ1%を目指しつつ、活動の成果はレースの完走、プレゼンの質、ビジネスの利益という客観的な事実として記録、管理する。
2025年以降、アルファスクールは全米的な注目を集めている。ニューヨーク・タイムズやCNN、CBSニュースなど主要メディアが繰り返し取り上げ、トランプ政権下のマクマホン教育長官が2025年9月にオースティン校を視察し「模範例」と評するなど、政策的な追い風も受けている。同校はオースティンに加え、マイアミ、サンフランシスコ、ニューヨーク、シャーロット、スコッツデールなど全米十数都市に拡大している。アルファスクールは教育者ではなく起業家出身のマッケンジー・プライス(MacKenzie Price)氏が、マイクロスクール「アクトン・アカデミー」からのスピンオフとして2014年に立ち上げた。プライス氏はスタンフォード大学卒で、当初は「エマージェント・アカデミー」という名称だった。
アルファスクールの最大の資金的・戦略的支援者は、ソフトウェア企業トリロジー(Trilogy Software)の創業者であり、プライベートエクイティ会社ESWキャピタルを率いるジョー・リーマント(Joe Liemandt)氏である。リーマント氏はスタンフォード大学を中退してトリロジーを興し、1996年には史上最年少のフォーブス400入りを果たした後、長らく表舞台から退いていたが、近年アルファスクールの「プリンシパル(校長)」として復帰した。報道によれば、同氏は生成AIの登場以降、トリロジー及びESWキャピタルから10億ドル規模の資金を教育向けAIソフトウェア開発に投じている。アルファ独自の学習プラットフォーム「TimeBack」もこの投資の一環で開発された。同一の教育モデル(「AIを活用した2時間学習」)を用いる関連校として、GTスクール、ネクストジェン・アカデミー、ノヴァシオ・スクール、アンバウンド・アカデミー、ヴァレンタなどが各地に展開されており、いずれもアルファスクール創業陣やESWキャピタルと人的・資本的なつながりを持つ。
14歳起業、18歳で1億円企業CEOを養成するファウンダーズスクール
ファウンダーズスクールでは、午前中はアルファ方式の「TimeBack」ソフトウェアによる学習に充て、多くの生徒が午前11時前後には学習を終える。午後は「ファウンダー・ブートキャンプ」と呼ばれる起業実践プログラムに充てられ、1年目だけで30回以上の事業検証サイクルを経験し、営業・AI活用・デザインなどの実務スキルを学びながら、実際に事業を立ち上げる。2~4年目は、自ら選んだ事業を100万ドルの粗利達成に向けて拡大していく個別メンタリング中心の期間となる。
生徒は立ち上げた事業の知的財産・株式を100%保持でき、学校側はベンチャーキャピタルのような出資は行わない。学業面でも、SATは9年生で1400点、10年生で1500点を目標に掲げるなど、名門進学校並みの大学進学準備(AP科目、認定高校卒業資格)を維持しつつ、起業活動を「付加的」に組み込む設計となっている。通学は平日午前8時15分~午後5時のフルタイム制で、一部、寮生も受け入れる。
AI時代のリーダーを育てる新たな教育実験
AIを活用しAI時代に強い人材を育てる新しい教育が米国で試行されている。アルファスクールとファウンダーズスクールは、いずれもAIによる個別最適化学習で基礎学力習得の時間を大幅に短縮し、空いた時間を実社会で通用する能力の育成に充てる、という思想に基づく教育モデルである。勉強ができる秀才でなく、人間性にフォーカスし、身体的・精神的にタフで、AI社会で価値を生み出せるリーダーの育成を目指す。今後試行錯誤もあろうが、注目すべき社会実験である。
(以上)
著者
川口 洋二氏
Delta Pacific Partners CEO。米国ベンチャーキャピタルの共同創業者兼ジェネラル・パートナー、日本と米国のクロスボーダーの事業開発を支援する会社の共同創業兼CEOなど、24年に渡るシリコンバレーでの経歴。NTT入社。スタンフォード大学ビジネススクールMBA。





ファウンダーズスクールの姉妹校であり、教育界のゲームチェンジャーとなっているのが、2014年にオースティンで生まれた「アルファスクール(Alpha School)」である。アルファスクールは、「1日わずか2時間の学習で従来の2倍のペースで学べる」という触れ込みのAI活用型私立学校である。教師の代わりに「ガイド」と呼ばれる大人が生徒を見守り、午前中は独自のAIを用いた個別最適化学習プラットフォーム「TimeBack」を用い、AIが個々の生徒の習熟度に応じて、読み書き・算数・理科などの基礎科目を短時間で修了させる。アルファスクールは、生徒の学力が標準テストで全米上位1?2%に達し、通常1年かかる学年進度を平均80日で修了できることを標榜している。
図2. アルファスクール(同社WEBより)