2022年4月号「Yコンビネーターデモデイに見る米国ベンチャー最新動向」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。今号は昨年5月号でもご紹介したYコンビネーターのデモデイについてレポートします。

 

システムの進化や応募者の多様化も進んだ第34回デモデイ

AirbnbやCoinbaseを生み出した米国有力アクセラレーターのYコンビネーターの第34回デモデイが3月末に開催された。
Yコンビネーターのデモデイはシード期のベンチャーと投資家をマッチングするのが最大の目的だが、質の高い起業家がどこに事業機会を感じているのかを知る良い手掛かりにもなる。
今回からYコンビネーターがスタートアップ一社あたりに投資する額がこれまでの約1,500万円から約6,000万円に増額した。今回のプログラムには過去最高の約400社が選抜され、二日間にわたってオンラインでの投資家向けプレゼンテーションが行われた。投資家向けのウェブでは、創業者のライブのプレゼン動画と、発表資料と簡単な情報を見ることができる。発表と同期して情報が表示されるため、情報を探す手間がない。また、簡単にベンチャーへの投資の約束、打合せ依頼ができるようになっており、デモデイSaaSも進化を遂げている。

選抜されたベンチャーの内訳は女性起業家が約10%、黒人系が6%、ラテン系が12%となっており、多様性にも重きを置いている。地域別には米国についで、インド、ナイジェリア発のベンチャーが多かった。残念ながら日本からの参加ベンチャーは見当たらなかった。

増加がみられた気候変動対策ベンチャー

分野はデジタルトランスフォーメーションから気候変動対策、Web3、フィンテック、ヘルスケア等の成長分野のベンチャーが多くみられた。
気候変動対策関連ベンチャーは約30社にのぼり、気候変動対策にフォーカスした他のアクセラレターよりも多くのベンチャーを生み出していることになる(例えば、Activateアクセラレーターは23社、Elemental Exceleratorは19社を選抜)。
気候変動対策ベンチャーの起業家にもYCの持つブランド、成功事例やプログラムが、専門のアクセラレーターより魅力的なものに映っている模様である。

気候変動対策の分野では、市場規模と環境へのインパクトが大きい産業界に対するソリューションやカーボン削減関連(Yコンビネーターはカリフォルニア州に拠点を置いていることが影響か)のベンチャーが食品や代替エネルギーといった他の分野よりも多く選定されていた。具体的には、産業規模での空気中のCO2除去の新しい方法、業界初の水素のコモディティ・マーケット、カーボンネガティブな道路、バッテリー駆動型貨物船、即座に保険金が支払われる気候変動保険、等があった。

例えば、Alga Bioscience社は藻類により牛のメタン排出の削減を目指している。同社は海藻の一種(Asparagopsis taxiformis:カギケノリ)を化学的に改良した飼料添加物を作り、これを牛が食べることで消化が変化、活動効率が上がり、酪農家は飼料コストを20%削減することができる。カギケノリは日本近海にも分布し、牛のメタン排出を80%以上削減することはサイエンス的に論文が出ている が、高価なため広く普及させるのが難しかった。Alga Bioscience社はカギケノリを使うのでなく、化学的に同等なものを開発しコストを下げる。牛のゲップは、人為的に発生するメタンの最大の発生源となっている。Alga Bioscienceの資料添加物により、農家は排出を防ぐことができ、飼料コスト削減に加えて炭素クレジットの支払いを受けることができるようになる。

図1. YCベンチャーのAlga Bioscienceの藻による牛のメタン排出削減

まだまだ熱いNFT関連ベンチャー

Web3関連のベンチャーは25社程度あった。Web3サービス、DeFi(分散金融)、クリプト投資等の分野のベンチャーが見受けられた。ベンチャー投資という観点では、昨年はNFTの年、今年はWeb3への投資が活発化すると予測されているが、今回のYコンビネーターのデモデイを見る限りでは、NFT関連もまだまだ新しいベンチャーが生まれてきているようである。具体的には、ブランド向けNFT化支援、物理的な収集品(トレーディングカード、スニーカー、時計等)を安全な保管庫に保管(セキュリティ会社と提携)し、資産の3D表現を作成、ブロックチェーン上でNFT化するソリューション、LLC(合同会社)のDAO(分散型自立組織)への置き換え(会社登録とセットアップのコスト削減)、ミュージシャンがロイヤリティを担保にしたNFTを発行できるマーケットプレイスとインフラファン(ファンに直接繋がり、直接収益化ができる)、Web3の開発者が単一のAPIからすべてのNFTデータを照会することを可能するソリューション、NFTを発見・分析・取引できるダッシュボード、消費者がクレジットカードや銀行口座を使ってNFTを購入できるようにするアプリ埋め込み可能なウィジェット、等があった。

今回選定されたベンチャーから次のAirBnBのような大型ベンチャーが生まれるのか、今後の成長が楽しみである。
(以上)