2021年11月号「メタバース」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。
10月に発表され話題を呼んだFacebookの社名変更。シリコンバレーでもメタバース関連企業が盛り上がりを見せているようです。                       

Facebook社名変更で盛り上がるメタバース市場

10月末にFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOが社名を「Meta」に変更すると発表して、シリコンバレーではメタバースが盛り上がっている。同社の本社があるメンロパーク市では、本社の正面に置かれている「いいね」の看板が「Meta」に変わった。シリコンバレーに出張の際に「いいね」看板の前で記念写真を撮られた日本の方も多いのではないか。

メタバースとは?

メタバースとは日本語では巨大仮想現実空間と訳されているようで、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)技術を使い、より現実世界に近づけたデジタル空間のことを指す。1992年、SF作家ニール・スティーブンソン氏の「スノウ・クラッシュ」に登場するネット上の仮想空間がルーツのようである。デジタルコンテンツを見るだけでなく、全身での没入感がある。一方で、メタバースとはVR/AR/MR(Mixed Reality:複合現実)とAIとブロックチェーンを組み合わせたもの、という最近のキーワードを並べた定義もあり、まだ話す人により定義もまちまちである。

開発が進むVRヘッドセット

メタバースでは通常VRヘッドセットを利用する。eMarketer社の報告によると、米国では2800万人がVRヘッドセットを使用しており、2023年までに約3300万人に増加すると予想されている。米国では11月末の感謝祭の翌日の金曜日のビッグセールの「ブラック・フライデー」でVRヘッドセットの売れ筋のMeta(Facebook)のQuest 2がどれくらい売上を伸ばすか、注目されている。ヘッドセットはMetaの他、マイクロソフト(ホロレンズ)、Apple、HTC、そしてパイオニア的存在で今年10月に約550億円の資金を調達して復活が期待されるMagic Leap等、競争の激しい分野になっている。

VRヘッドセットは重くてつけ心地が悪く、メタバースの普及を妨げる一要因となっているが、新しい試みもある。例えば、HTCは快適さと携帯性を重視したコンパクトで軽量なVRメガネ「VIVE Flow」を米国で10月に予約受け付けを開始した。このヘッドセットはゲームでの使用は想定されておらず、コントローラもない。「VIVE Flow」がターゲットにしているのは、没入感がある瞑想での利用である。ストレスの多いシリコンバレーの企業ではウェルネスの促進のため瞑想が取り入れられており、瞑想室を用意している企業も多く、「VIVE Flow」はより早く深く瞑想状態に入ることができそうである。「VIVE Flow」は瞑想の他に動画の視聴、脳トレ等での利用を想定している。

VRヘッドセットの必要がないメタバースもある。成功例として、子供向けのゲーム作成、共有ができるロブロックス、アリアナ・グランデの仮想ライブを行った、フォートナイトで有名なエピック・ゲームズ、マインクラフト等がある。ロブロックスは11月に収益が約700億円、前年比102%の成長と発表し、時価総額は約6兆7千億円程度と大きくなっている。メタバースはゲーム以外に、ソーシャル・メディア、メタバース・オフィスでの新しい働き方、 デジタル・ファッション、 デジタルアーツ等への広がりが期待されている。

 

 

メタバースと仮想通貨

メタバースではNFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)が活躍する。UplandはNFTを使ったメタバース不動産ゲーム(モノポリーのメタバース版のようなもの)で、仮想の不動産を実際の地理情報にマッピングし、例えば、仮想世界でニューヨークのエンパイアー・ステート・ビルディングを所有できる。NFTが土地の所有証明書となる。参加者は土地を売って、実際にお金を受け取ることができる。UPXという仮想通貨を使って決済する。UPXはUplandでのみ利用できるため、 安全に米ドルと交換できる。このため、法律的には通貨でなくデジタルグッズになり、規制を免れる。11月時点で米国で13都市をカバーし、6万のデイリー・アクティブ・ユーザーを持つ。黒字経営だが、今月(11月)、約330億円の企業価値で約20億円の資金を調達した。

図 UplandのNFTとメタバースの不動産ゲームアプリ (Upland社より)

個人が主体となるWeb3

Facebookの対抗勢力としてWeb 3も注目されている。シリコンバレーの大手ベンチャー・キャピタルのa16z等がWeb3関連のベンチャーへ投資する巨額のファンドを立ち上げる等、ベンチャーキャピタルもWeb3を有力視している。オープンスタンダードで未来のメタバースを構築することが可能だと考える技術者が、少数ながらも増えてきている。Web 3ではオープンソースのコードと、ブロックチェーンベースのシステムを使って、コミュニティーベースの分散化されたメタバースの社会を構築できる。a16zは、Web 2はFacebook等のプラットフォーマーの上の世界、Web 3はプラットフォーマーからの開放、個人が貢献できる世界、と対比している。

Web 3のオープン性は、ベンチャー起業家にとって魅力的である。メタバースは一企業が作るものでなく、オープンスタンダード、相互運用性、そして新しい民主的な統治形態で構築されるべきであるという主張もある。今後、メタバースがどうように進化するか、注目される。

(以上)