AXの教科書
第7章 業務の「効率化」ではなく「自動化」にこだわる

――ボトムアップ軸の第2ステップ。人の時間が本当に空くのはここから
前回は、AI活用を「当たり前」にするための定着の打ち手をお伝えしました。今回はボトムアップ軸の次のステップ、業務プロセスの再定義と自動化の話です。
「AIを使っているのに、忙しさが変わらない」
効率化と自動化は、何が違うのか

図:効率化と自動化の違い
言葉を整理します。
効率化とは、人が主役のまま、AIを道具として使うことです。人が指示を出し、AIが答え、人が仕上げて次に進める。第3回・第4回でお伝えした生成AIの5つのレベル(AIの実力をLv.1〜Lv.5の5段階で見る物差し)で言えば、人が指示してAIが答えるLv.2〜Lv.3の使い方です。
自動化とは、業務の流れそのものをAIが進め、人は確認と例外対応だけに回ることです。会議が終われば議事録が自動で作られ関係者に共有されている。問い合わせが来れば過去の対応事例をもとに返信案が作られ、担当者は承認するだけ。5つのレベルで言えばLv.4――ゴールを渡せば自分で段取りして仕事を進める、AIエージェントの世界です。
効率化と自動化の間には、見た目以上に大きな溝があります。効率化では、人の時間は「少しずつ」しか空きません。自動化まで進めて初めて、人の時間がまとまって空きます。そして第2回でお伝えした通り、AXの目的は空いた時間をカテゴリA(人の本質業務)に振り向けることでした。つまり、自動化まで進まなければ、AXの果実は手に入らないのです。
AIへの業務移譲の4段階

図:AIへの業務移譲の4段階
では、どうやって効率化の先へ進むか。業務をAIへの業務移譲の4段階で捉えることをお勧めします。
段階1:人がやる。 AIは関わっていない状態。
段階2:AIが下書きし、人が仕上げる。 議事録の要約案をAIが作り、人が直して共有する。返信文をAIが書き、人が手を入れて送る。いわゆる効率化はここです。多くの会社が、この段階を「AI活用できている」と思って止まっています。
段階3:AIが実行し、人が確認する。 業務の流れをAIが最後まで進め、人は要所で承認するだけ。会議後に議事録が自動で作られ、人は目を通して「共有」を押すだけ。ここからが自動化です。
段階4:AIが自ら動き、事業を推進する。 人が指示する前からAIが能動的に動き出し、必要なときだけ人に確認を仰ぐ。人は日々の実行から手を離し、方向づけと判断に時間を使えるようになります。
この4段階の価値は、「うちはAIを使えている/いない」という粗い議論を、「この業務は今、段階いくつか」という精密な議論に変えられることです。同じ「AI活用」でも、段階2と段階4では経営への効果がまるで違います。
自動化に向く業務の見つけ方
すべての業務を段階4にすべきだ、という話ではありません。自動化に向くのは、第2回の業務の3カテゴリ分類でカテゴリC(AI・システムに任せる業務)に仕分けた業務のうち、次の3条件が揃うものです。
繰り返しがあること。 月に1回しか発生しない業務より、毎日発生する業務。頻度が高いほど、自動化の効果は大きくなります。
判断基準を言葉にできること。 「この場合はこう対応する」を文章で説明できる業務は、AIに引き継げます。逆に、基準を言葉にできない業務は、まだ人の側に置くべきです。
量が多いこと。 処理件数が多い業務ほど、人の時間がまとまって解放されます。
議事録の作成と共有、定型的な問い合わせへの一次対応、見積もりの下書き、日次・週次のレポート作成、受発注データの転記。多くの会社で、この条件に当てはまる業務が必ず見つかります。
進め方は「1業務ずつ、1段階ずつ」
自動化を進めるときの原則は2つです。
第一に、一気に段階4を狙わないこと。段階2の業務をまず段階3へ。段階3で安定して回るようになったら、例外のパターンが見えてくるので、通常ケースを段階4へ。1段階ずつ上げるほうが、結局は速く進みます。
第二に、1つの業務で型を作ってから、横に広げること。たとえば議事録業務で段階3を実現できたら、「AIが実行し、人が確認する」という型が社内にできます。この型は、問い合わせ対応にも、レポート作成にも応用できます。最初の1業務が、2つ目以降の教科書になるのです。
ケーススタディ:従業員150名の卸売業
この会社では、AI活用の当たり前化は進んでいたものの、活用はAIへの業務移譲の4段階のうち段階2(AIが下書きし、人が仕上げる)で止まっていました。営業事務の担当者たちは、受注メールの内容をAIに整理させながらも、受発注を管理する社内システムへの入力や関係部署への連絡は手作業のまま。「便利にはなったが、残業は減らない」状態です。
経営者は「受注処理」の1業務に絞って、段階3(AIが実行し、人が確認する)への引き上げを決めました。受注メールが届くと、AIが内容を読み取って入力データと関係部署への連絡文を作り、担当者は画面で確認して承認するだけ。判断に迷うケースはAIが「要確認」として人に回す設計です。
数ヶ月後、受注処理にかかる時間は大きく減り、営業事務の担当者は顧客からの相談対応という、より人間らしい仕事に時間を使えるようになりました。この会社が次に取り組んだのは、同じ型での請求業務の自動化です。1つ目の型が、2つ目を速くする。この連鎖が、ボトムアップ軸の理想的な進み方です。
自動化の先に、次の問題が待っている
最後に、予告をひとつ。
自動化が進むと、多くの会社で新しい問題が現れます。AIが数分で仕上げた仕事が、人の確認待ちで数日止まるのです。よかれと思って挟んだ人のチェックが、今度は会社のスピードを落とす側に回る。人がボトルネックになる、という問題です。
これはツールの問題ではなく、組織の設計の問題です。次回は、AI時代の組織デザインについてお話しします。
今回の要点
- チャットで聞いて答えを写す使い方は「効率化」であり、人の時間はまとまっては空かない
- AIへの業務移譲の4段階(人がやる→AIが下書き→AIが実行し人が確認→AIが自ら動き事業を推進)で業務を捉え、段階3〜4の「自動化」までこだわる
- 進め方は1業務ずつ、1段階ずつ。最初の1業務の型が、横展開の教科書になる
著者

茨木 雄太氏
アンドドット株式会社 代表取締役
2017年頃からソフトウェアエンジニアとして様々な業界の新規事業開発に携わる。2020年にject株式会社を設立し、新規事業開発支援を通して企業成長。2023年に生成AIに特化したアンドドット株式会社を設立。
法人生成AI活用普及協会(GUGA) 協議員 / 情報経営イノベーション専門職大学 客室教員 / ”Nasa Space App” 最優秀賞 /“QTnet TUNAGU ” 最優秀賞



前回お伝えした「AI活用の当たり前化」が進んだ会社から、よくこんな声を聞きます。
「社員はみんなAIを使うようになった。たしかに便利になった。でも、残業は減っていないし、忙しさも変わらない。AXの効果って、こんなものですか?」
原因ははっきりしています。その会社のAI活用が、チャットに聞いて、答えを写すところで止まっているのです
メールの文面をAIに作らせて、コピーして送る。資料の構成をAIに相談して、自分でスライドを作る。一つひとつの作業は確かに速くなっています。しかし、よく見てください。仕事の流れの主役は、相変わらず人間のままです。AIに聞くのも人、写すのも人、次の作業に進めるのも人。作業は速くなっても、人がその業務に張り付いている構図は何も変わっていません。
これが「効率化」の限界です。