AXの教科書
第5章 AXの王道の進め方―トップダウンとボトムアップの2軸

この連載も折り返し地点に来ました。ここで一度、立ち止まって振り返ります。
第1回で、AIを「ヒト・モノ・カネ」に次ぐ第4の経営資源として捉える視座をお伝えしました。第2回では「その仕事は、なぜ人間がやっているのか」という問いとともに、業務を「人の本質業務(カテゴリA)」「今は人が担うべき業務(カテゴリB)」「AIやシステムに任せる業務(カテゴリC)」の3つに仕分ける業務の3カテゴリ分類をお伝えしました。第3回・第4回では、AIの実力を1本の軸で理解する生成AIの5つのレベルをお渡ししました。
視座、業務の見極め方、AIの実力。AXを考えるための道具は、これで揃いました。
では、この道具をどんな順番で使って、AXを進めていけばよいのか。今回はその「王道の進め方」をお伝えします。この回は、連載後半の地図を兼ねています。
AXが進まない会社には、3つの型がある
AX推進の2軸――トップダウンとボトムアップ

図:AX推進の2軸(トップダウンとボトムアップの両輪)
AXの王道は、シンプルです。トップダウンとボトムアップ、2つの軸を両輪で回すこと。 本連載ではこれをAX推進の2軸と呼びます。
トップダウン軸は、経営者が上から進める変革です。
1.人がすべき業務を定義する。 第2回でお伝えした業務の3カテゴリ分類を使い、「完璧なAIがあったとしても人間がやるべき仕事は何か」を経営として決める
2.外部環境の変化の仮説を立てる。 AIによって、自社の競争環境と顧客の行動がどう変わるかを見立てる
3.採用と市場でのポジショニングを再定義する。 人がすべき業務に合わせて「どんな人を採るか」を変え、環境変化の仮説に合わせて「市場のどこに立つか」を決め直す
4.具体的な施策を実施する。 決めたことを、事業と組織の変更として実行する
ボトムアップ軸は、現場から積み上げる変革です。
1.AI活用を当たり前にする。 社内でAIを使うことが、インターネット検索と同じくらい自然な状態をつくる。ここが進むだけでも、資料作成や調査といった間接業務のコストが下がり始める
2.具業務プロセスを再定義し、特定業務を自動化する。 便利に使う段階から一歩進み、業務の流れそのものをAIに任せる
3.AIへの移譲割合を増やしていく。 自動化できた業務の型を横に広げ、人の時間を人にしかできない仕事へ移していく
なぜ「両輪」でなければならないのか
どちらか片方だけでは、必ず途中で止まります。
トップダウンだけの会社は、絵に描いた餅になります。経営者が立派な構想を掲げても、現場の社員がAIを使ったことがなければ、構想を実行する手足がありません。冒頭の型③がこれです。
ボトムアップだけの会社は、点の改善で終わります。現場の工夫でいくつかの業務が便利になっても、部門の壁は越えられません。業務の線引きを変える、組織の形を変える、市場での立ち位置を変える――会社を変える判断は、現場からは動かせないのです。型①と型②がこれにあたります。ツールを配っただけの型①も、方向を決める経営の動きがないという点では、同じ構図です。
トップダウンが方向を決め、ボトムアップが実行力を育てる。上から旗を振り、下から足腰を鍛える。この2つが噛み合ったとき、初めてAXは「一部の取り組み」から「会社の変化」になります。
この連載の残りは、AX推進の2軸の深掘りです
ここから先の連載は、この2軸を1つずつ深掘りしていきます。
まずボトムアップ軸から。第6回で「AI活用を当たり前にする方法」を、第7回で「効率化で満足せず、自動化までこだわる考え方」を扱います。第8回では、自動化が進んだ先に必ず現れる「人がボトルネックになる問題」と、組織の設計を考えます。
次にトップダウン軸の中で最も難しい「外部環境の変化の仮説」を、第9回で応用編としてじっくり扱います。自社の都合だけでなく、立っている土俵そのものがどう動くかを考える回です。
そして第10回で、2つの軸を束ねる話をします。結論を先に言えば、この2軸を同時に動かせるのは経営者だけです。なぜそう言えるのかは、第10回でじっくりお伝えします。
まず、自社をAX推進の2軸に置いてみてください
今回の締めくくりに、小さな演習をひとつ。
自社のAXの現状を、2つの軸それぞれで振り返ってみてください。
トップダウン軸:人がすべき業務を、経営として定義したことがあるか。外部環境の変化について、仮説を持っているか。
ボトムアップ軸:社員の何割が、先週AIを使ったか。「使うと便利」を超えて、AIに任せきっている業務が1つでもあるか。
多くの会社は、どちらかの軸がほぼゼロか、両方とも最初の一歩の手前にいます。それで構いません。現在地がわかれば、次に打つ手が決まります。上が止まっているなら経営の議題に載せる。下が止まっているなら、まず使う人を増やす。
次回は、ボトムアップ軸の出発点である「AI活用が当たり前の会社にする方法」からお話しします。
著者

茨木 雄太氏
アンドドット株式会社 代表取締役
2017年頃からソフトウェアエンジニアとして様々な業界の新規事業開発に携わる。2020年にject株式会社を設立し、新規事業開発支援を通して企業成長。2023年に生成AIに特化したアンドドット株式会社を設立。
法人生成AI活用普及協会(GUGA) 協議員 / 情報経営イノベーション専門職大学 客室教員 / ”Nasa Space App” 最優秀賞 /“QTnet TUNAGU ” 最優秀賞



進め方の話に入る前に、うまくいかないパターンを見ておきます。AXが止まってしまう会社には、共通する型があります。
型①:ツールを入れただけ。 全社でAIツールを契約した。説明会も開いた。しかし半年後に使っているのは一部の社員だけ。「うちはAIを導入済みです」と言えるが、何も変わっていない。
型②:一部門に任せただけ。 情報システム部門や若手の有志チームに「AI活用を検討して」と任せた。担当者は熱心に取り組み、いくつかの業務は便利になった。しかし他部門には広がらず、会社全体としては何も変わらない。
型③:計画を作っただけ。 立派なAX構想を描いた。実行計画の資料もある。しかし現場の社員は誰もAIを使ったことがなく、計画は紙の上で止まっている。