AXの教科書
第4章 AIで「できること」を5段階で理解する(後編)

AXの教科書

AIで「できること」を5段階で理解する(後編)

AIの可能性を知ることで、人がするべき業務を考えよう

前章(前編)では、生成AIシステムの進化レベル0から2まで ── 生成AIモデルそのものから、自社データに接続され業務システムを操作できる段階まで ── 人が主体となってAIを操作する3段階を整理しました。
Lv.2の段階で応答が外部システムに届くようになりましたが、それでも1回1回、人が指示を出すという構造は変わりません。ここから先のLv.3、そしてLv.4では、その構造そのものが変わります。
前編の冒頭で申し上げた視点を、もう一度繰り返させてください。AIで「できること」を学ぶ目的は、目の前の業務をAIで置き換えることだけではありません。「AIにこれだけのことができるとすれば、自社の中で人がやるべきこと(本質業務)は何なのか」を考え直すためのフレームワークです。後編ではAIに任せられる範囲がさらに広がっていきますから、なおさら「人がすべきこと」の輪郭を、レベルが上がるごとに思い浮かべながら読み進めていただければと思います。

Lv.3 AIエージェント

Lv.3のAIエージェント(Agentic AI)は、人の確認を一回一回挟まずに、AIがループを回して成果物まで持っていく段階です。
人がゴールを渡す。AIはそのゴールを達成するために、必要なステップを自分で分解し、ツールを選び、実行し、途中で出てきた問題に対処し、最終的なアウトプットを返してくる。一回の往復ではなく、何往復ものループを自律的に回す存在です。
このLv.3を成り立たせているのが、次の4つの自律要素です。

図表1:AIエージェントを成り立たせる4つの自律要素

要素内容
タスク分解複雑なゴールを「ステップA、B、C」に分解し、順次実行する。
動的な再設計実行途中のエラーや新情報に基づき、自ら手順を修正する。
能動的なトリガー「朝9時になったら」「未読メールが溜まったら」など、状況を検知して自発的に始動する。
外部ツール協調SaaS、PowerPoint/Excel/Word、グループウェア、別エージェントなどを必要に応じて操作・連携し成果物を仕上げる。


第一に、タスク分解。「来週の役員会向けに、競合3社の決算動向を踏まえた提案書を作って」と言われたとき、調査→比較→構成案→文章化→図表作成→レビュー、と自ら段取りを組む。これがエージェント的な振る舞いの第一歩です。
第二に、動的な再設計。最初に立てた計画にこだわらず、状況に応じて段取りを組み直す。優秀な人材なら当たり前にやっていることを、AIがやり始めた段階と言えます。
第三に、能動的なトリガー。人の指示を待つだけでなく、特定の状況に応じて自ら動き出す力です。Lv.2までは「人が呼んで初めて動く道具」でしたが、Lv.3は「気づいたら動いていてくれる相棒」へと姿を変えます。
第四に、外部ツール協調。一つのツールに閉じず、必要な道具を自分で取りに行く。これがLv.3を「ループ」たらしめる要素です。

Lv.2 と Lv.3 は、具体的に何が違うのか

Lv.2とLv.3は同じ「AIにツールを使わせる」段階に見えるため、混同されがちです。違いを業務シーンで並べると、輪郭がはっきりします。

図表2:同じ業務シーンでのLv.2とLv.3の違い

業務シーンLv.2(人が指示を出してAIが1回応答)Lv.3(ゴールを渡してAIが自走)
議事録対応「この録音を要約して」と頼むと議事録が返ってくるMTG終了後、過去の議事録も参照しつつ、自動で今回の議事録を作る。必要に応じて、参加者に議事録を自動共有したり、タスク管理ツールやCRMに自動起票したりもする。
顧客返信「この問い合わせメールに返信文を書いて」と頼むとドラフトが返る問い合わせを検知し、過去事例とFAQを参照して返信案を作り、担当者の承認待ちまで進める。
競合調査「自社の競合を分析して」と頼むと結果がまとまる自社製品の分析→競合候補のリサーチ→競合企業のIRやPRの自動で選定して詳細リサーチ → 分析結果を最適な見た目(グラフやWebサイト)で表示。必要に応じて毎月自動レポートの作成も依頼可能。
経費精算領収書画像を渡すと勘定科目を提案してくれる経費アプリのスキャン画像から自動仕訳・申請ドラフト・上長アサインまで実行。科目が不明な場合は過去の例を参照し、これでいいか人へ承認を依頼。
開発作業「このコードのバグを直して」と頼むと修正案が返る「このバグを解決して」と頼むと、コード修正・テスト・PR作成まで自律で行う


ポイントは、Lv.2が1往復で完結する依頼なのに対し、Lv.3はゴールを渡して、AIが自分で何往復もする点です。

Lv.3の精度は「モデルの賢さ」だけで決まらない

もう1点、Lv.3で重要な事実があります。エージェントの完成度はサービスごとに大きなグラデーションがあるということです。
「同じAIモデルを使っているのに、なぜA社のエージェントは便利で、B社のエージェントは使い物にならないのか」 ── これはLv.3でよく起きる現象です。理由は、エージェントの精度がLv.0のAIモデルの賢さだけでは決まらないからです。
Lv.3の精度を左右するのは、ハーネス/LLM Ops(AIにツールを使わせる仕組み・指示の出し方・状態管理・精度評価)と呼ばれる、ソフトウェア開発側の作り込みです。同じLv.0のモデルでも、どんなハーネスで動かしているか、どんなLLM Opsで監視・改善しているかで、エージェントとしての実力が桁違いに変わります。
経営者として知っておくべきは、「○○モデルを使っているから安心」ではなく、「そのモデルをどう動かしているか」までを問うことです。例えば同じGPTモデルでも、使うツールによって、成果物の品質は全くの別物になる。ベンダー選定の目線は、ここに置く必要があります。
代表例としては、汎用的に様々ば業務を自律的に進めるClaude Coworkや、ソフトウェア開発に特化したClaude Code、画面操作までこなすComputer Use系、リサーチ業務特化のDeep Research系などが存在します。「目的を渡せば仕事をやり切る部下」のイメージが近いでしょう。
Lv.3の段階に到達すると、AIを「使う」感覚から「任せる」感覚へ、捉え方が変わります。1人の人間が、AIエージェントを複数走らせて、まるで100人分のチームを動かすように働く。これが業務効率化や働き方改革の話を超えて、事業運営の前提そのものを書き換える段階です。次章以降で扱う「ビジネスモデルの変革」「投資判断」「組織デザイン」は、いずれもLv.3が前提となって初めて成立する議論になります。

Lv.4 自己改善型AIエージェント

Lv.4は、現時点ではまだ研究領域に近い段階です。製品として「これが代表例」と呼べるものは存在しません。それでもこの章で取り上げる理由は、各社が向かっている方向だからです。AXの戦略を組み立てる経営者として、視野に入れておくべき景色になります。
Lv.3が「優秀な部下1人」だとすれば、Lv.4は「自走しながら、自分自身を磨き続ける存在」です。実行能力に加えて、メタな視点で自分の動き方そのものを改善するループを持ちます。
Lv.4の中核となる能力は、次の4つです。

図表3:自己改善型エージェントの中核能力(Lv.4)

能力内容
自己評価過去の実行結果を振り返り、何がうまくいき何が失敗したかを構造的に把握する。
プロンプト・ワークフローの自己更新自分の指示書・手順書をAI自身が書き換え、次回以降のパフォーマンスを引き上げる。
ツール選択の最適化どのツール・どのモデルが最適かを学習し、組み合わせを進化させる。
継続的な能力獲得新しいパターンやスキルを取り込み、扱える領域を広げ続ける。

 

現在地としては、自己反省(Reflection)、メタプロンプト最適化、自己改善型コーディングエージェントといった研究領域で芽が出始めている段階です。製品として広く使われるのはこれからですが、各AI企業がこの方向を目指していることは間違いありません。
Lv.4に到達すると、AIは人が任せた相手から、自分で経験を重ねて伸びていく存在へと変わります。人間の役割は、ゴール設定・倫理判断・例外対応へと、より上流に集約されていきます。「何をやらせるか」「どこまで任せるか」「例外時にどう判断するか」 ── この3点だけが、人間が握り続けるべき領域として残っていく。これがLv.4を意識した経営の姿です。

5段階を経営の地図として使う

ここまで前後編で5つのレベルを見てきました。最後に、この物差しを経営判断にどう使うかを整理します。まずは5段階を1枚にまとめます。

図表4:生成AIシステムの進化レベル・5段階のまとめ

レベル名称本質
Lv.0生成AIモデル入力に対し確率的に最も妥当な出力を生成する素のモデル
Lv.1生成AI操作ツール(PUI)チャットや音声でAIに直接指示する窓口
Lv.2データ・ツール連携AIAIに「手足」を生やし、社内データ参照・外部システム操作を可能にする
Lv.3AIエージェントゴールを渡せばAIが分解・実行・修正までやり切る
Lv.4自己改善型AIエージェントAIが自分の動き方を自分で評価し、改善・進化する


この地図を経営判断に使うとき、やはり自社のAX戦略の射程を定めるために活用頂きたく思っています。短〜中期で確実な効果が欲しいならLv.2〜Lv.3の徹底活用。中〜長期で大幅な生産性向上や事業改革を狙う場合は、Lv.4を見据えた採用や組織編成への投資。などのように短期〜長期の全ての目線を持っておくことが大事でしょう。

おわりに

ここまで読んでいただいてお気づきのとおり、本書はAIツールの導入マニュアルではありません。あくまでAX(AI Transformation)の話をしています。5段階を理解することは、ツール選定の指針になり、社員教育の地図になりますが、何より、自社の中で「人がすべきこと」と「AIに任せるべきこと」を切り分ける物差しになります。
世の中には「AIが進化すると今後こうなる」という予測や発信が溢れています。しかし、それらを鵜呑みにするのと、自分でAIの本質を理解した上で「では世の中はどう変わっていくのか」を考えるのとでは、5年後の経営判断の質がまったく違います。5段階のレベルを理解しておくことは、その「自ら考える力」の土台になります。
そして、Lv.3を視野に入れた瞬間、AXの議論は「業務効率化」の枠を超え、「事業のつくり方そのもの」に向かい始めます。
次回(第5回)では、視座をもう一段上げ、AXによるビジネスモデルの変革に踏み込みます。AI時代に成り立つ仕事と、成り立たなくなる仕事。事業のかたちは、どう変わり得るのか。自社内部の分析だけでは戦略は組めません。「ユーザーの消費活動の変化」クライアントやパートナー企業の変化」 のようにAI活用やAXを実施するのは、外部企業も同じです。
こうした外部要因まで視野に入れた、ビジネスモデル変革の組み立て方を、次章でお伝えしていきます。

著者

茨木雄太

茨木 雄太氏

アンドドット株式会社 代表取締役
2017年頃からソフトウェアエンジニアとして様々な業界の新規事業開発に携わる。2020年にject株式会社を設立し、新規事業開発支援を通して企業成長。2023年に生成AIに特化したアンドドット株式会社を設立。
法人生成AI活用普及協会(GUGA) 協議員 / 情報経営イノベーション専門職大学 客室教員 / ”Nasa Space App” 最優秀賞 /“QTnet TUNAGU ” 最優秀賞