AXの教科書
第3章 AIで「できること」を5段階で理解する(前編)

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AIで「できること」を5段階で理解する(前編)

AIの可能性を知ることで、人がするべき業務を考えよう

前章では、自社の業務を棚卸しし、「人の本質業務」「今は人が担うべき業務」「AI・システムに任せる業務」の3つに分類する考え方をお伝えしました。
ここで多くの経営者が、次の壁にぶつかります。「カテゴリCに任せられる業務がありそうだ、と頭ではわかった。ただ、結局AIで何ができるのかが具体的にイメージできない」 ── そんな壁です。
ただし、ここで大切な視点を一つ申し上げたい。AIで「できること」を学ぶ目的は、目の前の業務をAIで置き換えて短期的に効率化することだけではありません。「AIにこれだけのことができるとすれば、自社の中で人がやるべきこと(本質業務)は何なのか」を考え直すための物差しとして、このフレームワークを使ってほしいのです。前章の業務棚卸しと対をなす視点として、お読みいただければ幸いです。
今回と次回の2回にわたって、その物差しを「生成AIシステムの進化レベル」という1本の軸で描き直していきます。前編ではLv.0からLv.2、後編でLv.3からLv.4を扱います。

生成AIシステムの進化レベル(5段階)とは

AIに関する情報を追いかけると、ChatGPT・Claude・Gemini・MCP・RAG・エージェント ── 聞き慣れない言葉が次々と出てきます。一つひとつの言葉を追っていては、関係性がつかめません。ところが、これらは1本の軸の上に並べることができます。それが「生成AIシステムの進化レベル」です。AIの応用力は、0から4までの5段階に整理できます。レベルが上がるほど、AIへ任せられる業務の品質も範囲も向上していきます。

図表1:生成AIシステムの進化レベル・5段階の全体像

レベル名称本質
Lv.0生成AIモデル(LLM/LMM)すべての出発点。素のAIモデル。
Lv.1生成AI操作ツール(PUI)チャットや音声でAIに直接指示する窓口。
Lv.2データ・ツール連携AIAIが手足を持ち、社内データや外部システムに繋がる。
Lv.3AIエージェントゴールを渡せば、AIが分解・実行・修正までやり切る。
Lv.4自己改善型AIエージェントAIが自分の動き方を自分で磨き続ける。


今回の前編では、Lv.0からLv.2まで、すなわち「人がAIを操作する」3段階を取り上げます。次回の後編で、Lv.3からLv.4の「AIが自走して働く」2段階に踏み込みます。
順番には意味があります。Lv.0の理解がないとLv.1の限界がわからない。Lv.1の限界がわからないとLv.2の価値が理解できない。下から積み上げて初めて、自社にとっての「次の一手」が見えてきます。

Lv.0 生成AIモデル

最下層のLv.0は、ChatGPTやClaudeといった「アプリケーション」ではなく、その内部で動いている生成AIモデルそのものを指します。
LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)やLMM(Large Multimodal Model:マルチモーダルモデル)が本質的にやっていることは、たった1つです。入力に対して、確率的に最も妥当と推論した出力(テキスト・画像・音声・動画)を生成する。プロンプトという文脈を与えると、モデルは膨大な学習データから「この文脈であれば、次に来るのはこういう内容が最も妥当だろう」と推論し、出力する。文章でも画像でも音声でも動画でも、原理は同じです。
このLv.0には、二つの系統が存在します。
生成型モデルは、入力に対して即座に出力を返す系統です。GPT-4、Claude Sonnet、Geminiといった、いわゆる「速いモデル」がこれにあたります。
推論型モデルは、内部で試行錯誤・思考を重ねてから出力する系統です。OpenAIのo1/o3系、Claude Extended Thinking、Gemini Thinkingなどが該当します。複雑な問題ほど、深く考えてから答える設計になっています。
経営者として押さえておくべき重要なポイントが2つあります。
第一に、Lv.0のモデルは単体では使えない(使いづらい)ということ。何らかのシステム(=Lv.1以降)に組み込まれて、初めて人が触れる存在になります。「ChatGPTを使う」と言うとき、私たちが触っているのはLv.0のモデルそのものではなく、Lv.1以上の「ツール」の方です。
第二に、このLv.0のモデル自体も、日々進化し続けているということ。新しい世代のモデルが出るたびに、上のすべてのレベルの精度が底上げされます。Lv.1のチャットも、Lv.2の社内データ参照も、Lv.3のエージェントも、土台のLv.0が賢くなれば、その上のすべてが賢くなる。「土台のモデルが進化する」ことが、AI業界全体のうねりを生み続けている根本的な理由です。

Lv.1 生成AI操作ツール(PUIツール)

Lv.1は、Lv.0のモデルに操作の窓口を取り付けた段階です。チャット欄に文字を打ち込んだり、マイクに話しかけて返事を受け取る ── 私たちがふだん「生成AIを使う」と言うとき、まず想像するのがこの形です。
PUI(Prompt User Interface)ツール: GUI(Graphical User Interface)がマウスとボタンでソフトを操作する仕組みだったのに対し、PUIはプロンプト(自然言語や音声)でAIに指示を出すインターフェースと私が勝手に定義しています。
ChatGPT、Claude.ai、Geminiの「素の状態」 ── Web検索もファイル参照も無効にした、もっとも基本的な使い方 ── が、ここに該当します。
このレベルでAIが得意とする業務は、7つに整理できます。AIで「できること」の引き出しは、まずこの7つを押さえることから始まります。

図表2:AIが得意な主要7業務(Lv.1)

#得意分野入出力の関係
標準生成要件 → 新規アウトプットメール文、企画書、コード、画像、音声、動画
変換・書き換え既存コンテンツ → 別形式/別表現翻訳、要約、加筆修正、リライト、文体変換
立案・発想要件 → アイデアサービス名、企画アイデア、コンセプト案
定性的な抽出・分類定性データ → 構造化データ情報抽出、勘定科目仕訳、タグ付け
定性的な評価・分析定性データ → 評価結果/判定契約書レビュー、コードレビュー、品質チェック
検索質問 → 学習済み知識からの回答専門情報の質問、用語の逆引き、調べ物
対話チャット応答のループ業務相談、壁打ち、ロールプレイング、英会話


この7つのAIが標準で得意とする分野を理解しておけば、自社の業務を見たときに、即座にAIを活用し効率化や改善ができるかの判断がつきます。頭の中の引き出しとして整理されているかどうかで、業務への当てはめ速度がまったく変わります。
ただし、このLv.1には明確な限界があります。AIはユーザー自身や自社のことを何も知りません。学習時点までの世間一般の知識に閉じています。だからこそ、依頼のたびに自社の事情をプロンプトで説明する必要が出てくる。これがLv.1の「便利だけれど、面倒くさい」という感覚の正体です。AIは便利な物知り顧問のような存在ですが、その顧問は自社の事情をまったく知らない人物だ、と思っていただくのが近いでしょう。

Lv.2 データ・ツール連携AI

Lv.2は、Lv.1の閉じた世界から飛び出す段階です。AIに外部接続が加わり、自社データ・外部データを参照したり、外部ツールを操作したりできるようになります。
イメージは、AIに「目や手足」を生やすことです。Lv.1までのAIは、頭脳だけは優秀でも、目も耳も手も持たない存在でした。社内の情報を見ることもできず、メールを送ることもできず、カレンダーを開くこともできない。Lv.2は、その頭脳に外部の世界を見る「目」と、世界に作用する「手足」を取り付けた段階です。
外部接続には、二つの方向があります。
参照系(読み取り系)は、AIに新しい情報を「与える」方向です。Web検索、ファイル参照、RAG(AIを活用したデータ検索のシステム)などが該当します。「先週の議事録を要約して」「うちの就業規則ではどうなってる?」「最新のニュースを踏まえて分析して」 ── こうした依頼が通るようになります。
実行・操作系は、AIが世界に「作用する」方向です。メール下書きの保存、カレンダー登録、Slack投稿、ファイル編集・操作、外部システムのAPI呼び出しなど。「下書きをGmailに保存しておいて」と言えば、そのとおりに動いてくれる。AIの返答が、画面の中の文字列で終わらず、現実の業務システムに反映される段階です。
代表例としては、Web検索や各種ツール連携を有効にしたChatGPT、Gemini、Claude、Copilotなどでしょう。主要なAIチャットサービスは標準で外部サービスと連携ができるようになっております。
ここで起きる変化は重要です。Lv.1までは、AIに依頼するたびに「うちの会社は〇〇という事業をやっていて……」と毎回背景を説明する必要がありました。Lv.2では、その背景をAI側が自分でデータを参照しに行ってくれる。社員一人ひとりが、自社の文脈にアクセスできるAIを横に置いて働く ── その姿がLv.2で初めて現実になります。
もしAIツールを購入する際は、「このAIに何を接続できるか」「どこまで業務システムと連動させられるか」までもしっかりと把握するようにしましょう。

次回はLv.3〜Lv.4について

次回(後編)では、人の指示を1回1回待たずにAIが自走して働くLv.3、そしてAIが自分の動き方を自分で改善し続けるLv.4へと話を進めます。1人の人間がAIに仕事を任せて、まるで100人分のチームを動かすように働く段階、そしてその先の地平に何が見えているか。AXを推進する経営者が、いま視野に入れておくべき景色をお見せします。

著者

茨木雄太

茨木 雄太氏

アンドドット株式会社 代表取締役
2017年頃からソフトウェアエンジニアとして様々な業界の新規事業開発に携わる。2020年にject株式会社を設立し、新規事業開発支援を通して企業成長。2023年に生成AIに特化したアンドドット株式会社を設立。
法人生成AI活用普及協会(GUGA) 協議員 / 情報経営イノベーション専門職大学 客室教員 / ”Nasa Space App” 最優秀賞 /“QTnet TUNAGU ” 最優秀賞