海外ビジネスレポート
~海外スタートアップ企業編~ 第2回 台湾

海外

 日本と距離の近い台湾。経済面でも以前から日本と台湾の交流は続いていますが、今年に入り、台湾の大手半導体メーカーTSMCが熊本県に新工場の立上げを決定し、更なる日本との関係強化が見込まれます。この台湾ですが、半導体やパソコンの大手企業だけでなく、数多くのスタートアップ企業が日本市場への参入を進めています。今回は、この台湾のスタートアップ企業の国内外の展開を支援するトリプルアイと台湾スタートアップ企業をご紹介します。
 インタビュアー:きらぼしコンサルティング 蓑田、于

台湾のデジタルトランスフォーメーションの水先案内人:III(トリプルアイ)

まず、私達、財団法人資訊工業策進会、通称:III(トリプルアイ)についてご説明します。トリプルアイは1979年に台湾政府と民間が共同で「「情報技術応用の普及、国家全体の競争力向上、情報工業発展環境と条件の形成」 を使命として創設されました。台湾のデジタル経済発展を牽引すべく「デジタルトランスフォーメーションの水先案内人」とし人材育成・研究開発等を通じて台湾政府と産業のデジタルトランスフォーメーションを促進しています。

トリプルアイ 対日産業推進性中心 陳 主任

台日産業推進センター

日本は台湾にとって産業経済の重要な提携パートナーであり、トリプルアイは日台双方の利益創出、提携の深化と拡大を持続させるため、DX院台日産業推進センター(TJIC)を設立しました。TJICでは商談会や一対一のビジネスマッチングを実施し、将来性のあるビジネスパートナー提携を支援する他、過去の蓄積した支援企業の会社紹介や製品紹介をデータベース化、一部は企業紹介を日本語に変換する支援も実施し、日本と台湾の提携モデルの実績を積み上げてきました。
 台湾経済部(経済産業省に相当)は台日産業連携を推進するため、2012 年 3 月「台日産業連携推進オフィス(TJPO)」を日本に開設。トリプルアイが事務局を受託し、三重県、和歌山県、秋田県など多くの地方自治体と業務提携、日本の産業組織との交流イベント、日台の優良企業の連携促進などを実施しています。
 更に台湾経済部は日台中小企業の連携とマッチングを推進するため、2018年1月に「台日中小企業連携推進プラットフォーム」(TJSCP)を創り、日本の政府機関と中小企業との交流連携に関する業務を一本化。こちらもトリプルアイが事務局を受託し、日本の中小企業庁、中小機構などと政策交流からセミナー・商談まで実施し、日台産業双方の強みを相補補完した国際市場の開拓を支援しています。

亜湾スタートアップテラス

 ここ数年、台湾政府が力を入れてきているのが、台湾のベンチャー企業支援です。台湾にはスタートアップ支援をする機関がいくつか存在しますが、台湾南部で世界的な起業支援クラスターを形成すべく、2022年台湾南部の高雄に南部最大の5G AIoTスタートアップ育成拠点の「亜湾スタートアップテラス」 を開設。
 スタートアップ企業を創出すべく、ミュージックセンター、電競館、ポートターミナル、展覽館、ソフトウエアパークという5つの拠点を立上げ、スマート製造、 ICS/ 情報セキュリティ、体験技術、スマートポート、娯楽・レジャー等の実証拠点の場所を提供しています。
 台湾・高雄は従来、重工業地帯として有名でしたが、このエリアを重工業地帯からIOTイノベーションエリアへ転換を図るべく、従来型産業と国営事業の結合、スタートアップ産業との異業種提携を支援しています。海外との繋がりも重視し、スタートアップ企業向けの海外市場開拓の専門研修、コンペ参加支援、企業マッチング、アクセラレータとの相互協力による世界市場へのアクセスを支援しています。結果、亜湾スタートアップテラスには既にスタートアップ企業42社が入居し、海外アクセラレータ7社と40社の戦略提携パートナーと共にスタートアップ企業を支援しています。

台湾のスタートアップ

 台湾企業の中には世界的なパソコンメーカーやテレビメーカーがあります。ハードウェアに強みがあり、メイドイン台湾の製品が世界を席巻し、台湾大手企業は国内外に素晴らしい組み立て工場を有しています。台湾政府はこの強みを活かすべく、IOT産業の発展に注力し、今後IOT産業が台湾経済を牽引することを目標として掲げています。ここで重要なのがベンチャー企業の存在です。大手台湾企業のハードウェア製造能力と、ベンチャー企業のアイデアで生まれたソフトウェアを組み合わせてIOTを発展することを目的としており、台湾政府は資金面だけでなく、民間の専門家をベンチャー企業に派遣し、大手企業との事業連携も支援しています。
 先ほどお話した亜湾スタートアップテラスも、スマート製造できる大きなチャンスの場です。台湾大手企業とは普通であれば接点を持つことも難しいのですが、亜湾スタートアップテラスでは実証実験の場として大手企業との連携の場を提供することが出来ます。これは亜湾スタートアップテラスにきた台湾企業だけでなく、日本のベンチャー企業も対象となります。

 台湾のベンチャー企業は、以前はマーケットの大きいアメリカのシリコンバレーを目指す傾向がありました。しかし、コロナウィルスの影響を受けて多くの台湾企業が台湾へ戻ってきました。しかし、台湾国内のマーケットは決して大きくありません。今後は距離の近い日本マーケットへの進出、日本企業との連携を望む台湾スタートアップ企業が増えてくるでしょう。
 台湾の強みであるハードウェア製造と日本の強みと言えるソフト産業をかけ合わせれば、世界市場での共同展開も大きく進んで行くでしょう。

台日の医療と介護のビジネスチャンス

 台日における医療と介護産業のビジネスチャンスを促進するため、TJPOでは日本企業と台湾スタートアップ・中小企業との交流・マッチングイベントを開催しています。
 台湾は日本と異なり、介護保険が存在していません。そのため、この介護問題を解決するべく、ICTを活用した介護に力を入れています。一方、日本は介護保険があり、介護産業が発展しています。台湾と日本双方の優位性を把握すれば、事業提携や共同での国際市場への進出が期待できます。台湾にとって日本は信頼できるパートナーです。トリプルアイではベンチャー企業が成長して台湾経済を牽引するために、台湾と日本の連携を通じてベンチャー企業の育成・成長支援に力を入れています。

台湾ベンチャー企業のご紹介

同時音声翻訳サービス提供会社VMFIインタビュー/Maxwell Peng社長
 前職はアメリカの会社で通訳をしていたのですが、翻訳には時間とコストが掛かりすぎる、既存の翻訳機も意図が言葉に翻訳されるなど課題を感じていました。一方、AIの実用化が進み、低コストの翻訳サービスが提供できる環境が出来つつあったことから、同時翻訳機に将来性を感じ、AI通訳の研究開発を行ったことが、起業のきっかけになりました。台湾はスタートアップ企業に対して政府の様々な支援策があります。スタートアップ企業への補助金や表彰イベントもあり、弊社も台湾市から100万台湾ドルの補助金をもらったことがあります。
 音声翻訳サービスの競合他社は多く存在しますが、当社の特長は①同時音声翻訳のスピードが速いこと、②手間をかけずに簡単に同時音声翻訳できること、③他社の同時翻訳が15秒程度しか対応できないことに対し、弊社製品は最長12時間の連続音声通翻訳が可能であることの3つです。
 2021年からJETROの支援を通じて日本企業との商談をはじめ、現在はJR九州などで弊社同時翻訳サービスを試用してもらっています。弊社製品は海外関連のイベントやスピーチで同時通訳として使われる想定しており、今後は国際関連のイベントを開催する日本企業とアプローチし、目標として2025年の大阪万博で採用されることを目指しています。

お役立ち資料

【海外】日本本社が知っておくべき中国拠点撤退の留意点(アーカイブ配信/資料)

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