2021年4月号「米国の気候危機関連ベンチャーの動向」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。                        今号は、米国の気候危機関連ベンチャーの動向について取り上げます。

加熱するクライメートテック投資

先日行われた日米首脳会談で日米が世界の脱炭素をリードしていくことが確認されたが、気候危機を解決しようとする技術はシリコンバレーでは、クライメートテック、クリーンテック2.0、と呼ばれ、ホットな投資分野のひとつとなっている。 BloombergNEFの3月15日の報告によると 、2020年のベンチャーキャピタルによるクライメートテック関連スタートアップへの投資額はグローバルで過去最高の170億ドルにのぼり、そのうち米国主導のベンチャー投資額はグローバル全体の49%を占める。2019年から2020年に投資を受けたベンチャー数は1,009社に達した。                

過去にも同様の投資ブームが…

米国での気候危機対策ベンチャーへの投資ブームは実は今回は2回目である。                                最初のブームは、ドットコムバブルが弾けた後に起こり、有力ベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンス(Kleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB))のジョン・ドア氏等が先頭に立って気候危機対策を訴え、クリーンテックへの投資を開始した。 当時、インターネット/ITはiPhoneが出る前で少々停滞気味で、今後アマゾンやグーグルに匹敵するようなベンチャーはITの分野では生まれない、次の大きな革命はクリーンテックである、とシリコンバレーでは良く耳にした。                               投資先は電池、ソーラーセル等が中心で、技術的課題の克服と信頼性の確保、工場の建設等に多大な時間と資金を要し、当時としては巨額の資金を調達しながらも倒産に追い込まれるベンチャーもあり、クリーンテック投資はベンチャーキャピタルの投資先としては難しい、という結論となった。

今そこにある危機感からのクライメートテック投資

今回のクリーンテック2.0はどうだろうか。                                               外部要因から見ると、クリーンテック1.0の頃と比べ、天候危機に関する認識が広く世間に広がっており、また、異常気象による自然災害等の問題が実際に身の回りで起こっており、将来でなく今ある危機として切迫感がある。                     ベンチャーへ流れる資金も厚くなっている。 ベンチャーキャピタル以外にも、企業、政府関係の資金が集まっている。                                                              アマゾンは2040年までのネットゼロを目標に、2020年夏、20億ドルのクライメート・プレッジ・ファンドを立ち上げた。製品前のスタートアップから既に成長した企業まで、世界中のあらゆるサイズ、ステージの会社を投資の対象にする。アマゾンのCO2排出量は2019年に15%増、5,117万トンにのぼっており、環境推進派から、事業活動からのCO2削減努力について批判を受けていた。ただし、2019年の同社の売上は22%増で、売上増に対してCO2排出量の増加は少ないとアマゾンは主張している。                アマゾンは元の計画を前倒しして、2025年までにAmazonの施設の100%代替エネルギー化を目指している。                             マイクロソフトは、アマゾンより一年早く2019年に10億ドルのクライメート・イノベーション・ファンドを立ち上げている。また、ビルゲーツは2016年に10億ドルのBreakthrough Energy Ventures fundを立ち上げ、2019年には1億ユーロのBreakthrough Energy Ventures Europeを、そして今年1月に10億ドルの2号ファンドを発表した。                    昨年からのSPAC上場ブームも気候対策ベンチャー投資の大きなプラス要因となっている。                          全固体電池のクアンタムスケープ社は、SPAC上場前にベンチャーキャピタルやフォルクスワーゲン等から約5億ドルを調達していたが、SPAC合併で約7億ドルの資金調達に成功した。                                                   複数のEV関連会社もSPACで上場している。SPACとは関係ないが、イーロン・マスクのような成功した起業家が排出されていることも、ベンチャーに良い影響を及ぼしている。 投資分野も幅広くなっている。再生エネルギーや電池だけでなく、交通/モビリティ、物流、農業、食品、製造(アドバンスト・マニュファクチャリング)、建設(スマート・ビルディング)、スマート材料、サーキュラー・エコノミー、その他様々な技術、ビジネスモデルに投資が振り向けられている。

〔画像〕山火事の影響でオレンジに染まるシリコンバレーの空

クリーンテック投資

カリフォルニアの山火事とシリコンバレーのオレンジ色の空(2020年9月9日筆者撮影)

課題と今後の見通し

一方で、依然、カーボン除去等、コスト的に難しい分野もある。                                             技術的課題を克服しても、既存の安価な化石燃料とマーケットで戦って、顧客を獲得しないといけない。                    新しい燃料等は規模が大きくならないとコストを下げられないが、値段が高いと客が得られず規模が得られないという鶏と卵の問題に直面する。                                                               この課題を解決するべく、ビルゲーツのBreakthrough Energy Venturesは、企業が環境に優しい燃料を事前に購入する約束をするとクレジットが得られるような仕組みを検討しているようである[i]。 個人でも、気候変動に対してアクションを起こしたい、というニーズの高まりに対して                               個人向けのライフスタイルに応じたカーボン・オフセットのスマホアプリを提供したり、                          AIを活用した企業向けカーボン・クレジットのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の提供による自動処理やマーケットプレースを提供したり、新しい技術やアプリケーション、ビジネスモデルのベンチャーも台頭してきており、今後もますますクライメートテックは盛り上がりそうである。 (以上) https://about.bnef.com/blog/climate-tech-vc-investing-tops-17bn-in-2020/ https://www.bloombergquint.com/business/gates-led-group-wants-to-help-climate-tech-find-paying-customers