2023年2月号
世界初!大気中のCO2を岩石で回収、コンクリートへ吸収させることに成功

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。今号ではCO2削減に大きく前進できる可能性のあるトピックスを紹介しています。

大気中のCO2をコンクリートへ閉じ込める!

今月、シリコンバレーのベンチャーが、大気中のCO2を岩石で捕捉し、コンクリートに永久に閉じ込めることに世界で初めて成功した。

スタートアップのHeirloom社は、サンフランシスコの少し南に位置するブリスベンの本社で、石灰岩を利用したDAC (ダイレクト・エア・キャプチャー)技術により大気中の CO2 を回収した[i]
石灰岩は豊富にあり、安価で容易に入手可能である。回収された CO2 はカリフォルニア州サンノゼにあるCarbonCure社(本社はカナダ)のコンクリート工場にキャニスターで運ばれた。その後、コンクリート・トラックを洗った後に回収された再利用水に注入され、CO2 が水中のセメントと即座に反応して鉱物化し、コンクリートを製造できた。
製造されたコンクリートはシリコンバレー全域で使用された。

[i] https://www.heirloomcarbon.com/news/co2-removed-from-the-atmosphere-by-direct-air-capture-is-permanently-stored-in-concrete-for-the-first-time

何度も再生可能な石灰石を利用したCO2吸収

HeirloomのCO2吸収の原理は比較的シンプルで、石灰岩が自然な状態でも大気からカーボンを吸収するという性質を利用している。ただ、自然な環境ではゆっくりとしたプロセスで、時間を短縮する必要がある。

今回のデモでは、粉砕した石灰岩を置いたトレイを何層にも山積みした(図1参照)。
空気がトレイを通過すると、スポンジが水を吸い込むように石灰岩が二酸化炭素を吸収する。2、3日後にCO2をたっぷり吸い込んだ岩石を再生可能エネルギーを使った電気窯(キルン)で加熱するとCO2ガスが分解され、ガスは集められてタンクに保管される。
炭素を失った石灰岩は、CO2 を収集するために再使用され、プロセスを繰り返し実行できる。

Heirloomの本社のCO2回収設備

図1. Heirloomの本社のCO2回収設備(同社ウェブより引用)

コンクリートのグリーン化にも貢献

今回のデモではコンクリートへCO2を封じ込めたが、コンクリートは重要な役割を果たす。
CO2 は炭酸カルシウムとしてコンクリート内に永久に閉じ込められ、コンクリートが解体されても、数百年にもわたって大気に戻ることがない。貯蔵庫としてのコンクリートがなければ、空気中から捕獲されたCO2は、地下に貯蔵するしかなく、漏れ出さないように厳重に管理する必要がある。
建設は今後も増加するが、建設材料のコンクリートは膨大な量の二酸化炭素を貯蔵する重要な受け皿となる。また、炭素がコンクリートの他の材料と結合すると、コンクリートの強さが増すという利点もある。

コンクリートは世界で最も使用されている建材だが、環境コストが高い。コンクリート産業は世界で最も環境に悪い産業の 1 つであり、世界の排出量の約 8% を占めている。
米国では行政もコンクリートのグリーン化を後押ししており、1月にニュージャージー州のフィル・マーフィー知事は、州による建設プロジェクトに低炭素コンクリートを提供する製造業者には金銭的インセンティブを与える法律に署名した。

2035年までに航空業界からの排出量と同規模のCO2吸収が目標

今回のデモでのCO2の吸収量は微々たるものだが、Heirloomは2035 年までに毎年 10 億トンの CO2 を大気から吸収するという大胆な目標を持っている。これは基本的に、航空業界からの毎年の排出量と同じ規模に匹敵する。コスト面についても、CO2の吸収量でトンあたり100ドルという、競合と比べてかなり低い目標を持っている。

ただし、何十億トンのCO2を吸収するには大規模な工場の建設が必要で、数千億円もの資金が必要と見積もる専門家もいる。さらに大規模な処理に対応できる技術開発への投資も必要である。

Heirloomの顧客にはオンライン決済のストライプ、マイクロソフト、ショッピファイ等がいるが、いかに顧客企業を増やせるかが今後の成長の鍵となりそうだ。

(以上)

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