2022年1月号「シリコンバレーVCが注目するメガトレンド: クリプトとWeb3」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。
デジタルの世界で、唯一無二の固有の価値を証明することができると日本でも注目のNFT。

シリコンバレーではどのような発展を見せているのでしょうか?

投資額3兆円以上!クリプト(暗号/ブロックチェーン)とWeb3

ウェブブラウザーの生みの親で、「ソフトウェアが世界を征服する」という言葉で有名なマーク・アンドリーセンが率いるベンチャーキャピタルのa16zが注目しているのがクリプト(暗号/ブロックチェーン)とWeb3の世界である。同社はその可能性について、インターネットやウェブ2.0、スマートフォンの黎明期を彷彿させると述べており、3千億円以上の資金をこの分野のベンチャーに提供する計画である。シリコンバレーのa16zだけでなく、世界中のベンチャーキャピタルが注目、特にこれまで暗号分野を敬遠していた老舗の大手投資家も参入しており、2021年のクリプト関連のベンチャーへの投資額は世界で3兆円以上にのぼる(Pitchbook社調べ)。大量の資金が流れ込み、クリプト/Web3は2021年のメガトレンドとなった。2021年に100億円以上の資金を調達したクリプト関連のベンチャーは50社で、ユニコーン(企業価値が1000億円以上のベンチャー)は65社以上になった。

デジタル世界で唯一無二の価値を証明

2021年にNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)が急成長、さらに、新しいクリプトのアプリケーションとしてDeFi(分散型金融), DAO(分散型自律組織)等が生まれている。2021年にNFTの市場は約2兆円、前年比50倍に膨れ上がった。NFTを使えば、簡単にコピーができるデジタルの世界で難しかった、唯一無二の固有の価値を証明することができる。ファイナンシャル・タイムズによると、NFTを活用したデジタルアートやコレクターズアイテムの市場は世界の美術品市場とほぼ同じ規模に拡大している。この流れに遅れまいとクリスティーズやサザビーズもNFTオークションに参入した。

Samsungは今年始めのCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)にあわせ、NFT対応のスマートテレビを発表した。購入前・後の作品をテレビの大画面で確認できる。また、クリプトはメタバースの経済基盤となる可能性もある。Facebookの社名変更や最近発表されたマイクロソフトの大手ゲーム会社アクティビジョンの買収に代表されるようにメタバースの覇権争いが始まっており、クリプト業界の追い風となっている。

活発な取引が行われているスポーツNFT

NFTはスポーツのデジタル・コレクティブル(収集品)の分野でも成長が著しい。例えば、野球選手のカード・コレクションのようなもので、選手のデジタル画像や歴史的なプレーの瞬間の動画等のデジタル版を収集する。スポーツNFTで代表的なベンチャーであるDapper Labs社は全米プロバスケットボール(NBA)のNFTを手がけている。同社が運営するNBA Top Shotで、NBA選手のデジタル・トレーディングカードや15秒程度の選手のハイライト動画が複数入ったパッケージを購入、取引できる。NBA Top Shotを利用して取引されたデジタル・コレクティブルは、過去1年で総額約800億円以上、登録アカウント数は約110万にのぼった。同社の企業価値は2021年9月に8千億円以上になっている。Dapper LabsのライバルのCandy Digitalはメジャーリーグ(MLB)のオフィシャルNFTを扱っており、今年に入って仮想通貨の価値が急落しているのにもかかわらず、1月15日に2次流通市場をオープン、最初の8時間で約1億円、週末で約3億円の取引きを記録した。

NFTはデジタルの画像や動画だけでなく、リアルなものにも関連づけることができる。例えば、スポーツの選手のトレーディングカードにサイン入りのボールをパッケージングできる。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ナイキはスウォッシュ、エア・ジョーダン等の商標をリアルな世界だけでなくネットの世界で使用するという申請を行ったようである。エア・ジョーダンのシューズ(実物)を購入して本物であることを確認して履かずに保管、その靴のデジタル版をメタバースで自分のアバターに履かせて楽しむ、といったことができるし、逆にデジタル版スニーカーがメインで、気にいったときだけ実物を入手する、という楽しみ方もできる。

 

図 Candy Digitalのページ:大谷選手のコレクティブルも(同社ウェブより)

クリプト/Web3が注目される理由とは?

クリプト/Web3が注目されているのは、その分散型テクノロジーでGAFAに代表されるWeb2の巨大IT企業や、金融、コンテンツ業界等の中央管理型、仲介者を破壊する可能性があるからである。GAFA等のWeb2の勝者により独占されたデータと経済取引の基盤を開放し、新しいベンチャーが参入できる。分散型テクノロジーの基礎となる技術スタックに様々なイノベーションが生まれている。消費者向けのアプリケーションでは、暗号通貨、金融の分野が成長しており、Web3によりインターネットそのものを破壊する可能性があると言われている。メインフレームの時代からパーソナルコンピュータ、スマホとハードウェアが進歩してきたが、これからはソフトウェアで構成されるクリプト・ネットワークが基盤になり、コンピューティングの新しいプラダイム変化が起こる可能性がある。

Web3の導入はまだ始まったばかりである。Web3アプリケーションは数千万人のユーザーに広がったが、Web2のユーザーは数十億人いる。暗号通貨を所有している人も世界人口の10%未満に過ぎない。分散型金融システムが保有している資産は現在約1千億ドルで、これも従来の金融システムに比較すれば微々たるものである。大きな可能性をもつクリプトであるが、一般に普及するまではあと5年を要する、という意見もある(Soundwise社のTascha氏)。過去のインターネットやモバイルの普及を見ると10億人ユーザーが指標で、クリプトの現在の成長率から計算すると10億人ユーザーを獲得するのに5年を要するようである。シリコンバレーのベンチャーキャピタルのa16zはクリプトの資産価値の変動に関わらず、10年以上に渡って長期的に投資、支援を続けるとコミットしており、メタバースとともに2022年もその動向が注目される。


(以上)