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2021年9月号「細胞培養クロマグロの刺身」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。
牛、鶏、豚肉の代替肉は普及していますが、魚の生肉、刺身は難しく、まだ広く普及するに至っておりません。
今号では、米国での魚の代替肉に関する話題をご紹介します。

食物由来の魚の代替肉の登場

牛、鶏、豚肉の代替肉は普及してきたが、魚の生肉、刺身は難しく、まだ広く普及するに至っていない。サンフランシスコのフィンレス・フーズ社は来年、植物由来のツナを、その後には細胞培養によるクロマグロの刺し身を提供する予定だ。海岸線から離れたアメリカの中部や砂漠地帯でも新鮮な美味しいマグロの寿司が食べられる日もそう遠くないかもしれない。
図 Finless Foodsのツナ巻き寿司 (同社ウェブより)

フィンレス・フーズ社は魚の細胞を培養して代替シーフードを作る細胞培養の技術を持つベンチャーである。細胞培養ツナを開発する過程で重要な役割を果たす植物性材料についていろいろと試していたところ、美味しい植物由来の(細胞培養でない)生のツナ肉ができた。シェフに試してもらったところ、味、食感に満足、自分の料理に取り込みたいとう意見が得られたため、手っ取り早く製品化することを決定した。2022年にはレストラン等で売り出す。

細胞培養技術による刺身の提供への挑戦!シーフードも地産地消が可能な時代が来る!?

植物由来のツナも魅力的なのだが、問題は刺し身には対応できない点である。ペーストや小さな塊のようなものは植物由来のものから作ることができ、マヨツナ等も提供できるが、刺身のような筋肉の塊を食感を同等にして実現するのは難しい。フィンレス・フーズ社は同社の細胞培養技術でマグロと同等の品質で、同程度の価格でのマグロの刺し身の提供を目指す。マグロの刺し身に成功したら、鮭やタイ等へ拡張していく。マグロは希少で養殖も難しく、また単価が高いため、コスト面でも最初のターゲットとしてうってつけである。

細胞培養というと研究室での理科実験を思い浮かべるかもしれないが、実際にはチーズやビールが製造されるのと同じような品質管理された食品工場で製造される。フィンレス・フーズ社は海で取れた天然クロマグロから細胞を採り、バイオリアクターの中で塩、砂糖、タンパク質等の栄養素を与え、増殖させる。自然の魚の細胞に起こることをバイオリアクターで実現する。もちろん、海で育った魚介類の水銀含有の心配はない。その後、出来上がりの3D構造、例えば刺し身の形にあわせて細胞を組み立てる。海に近くなくても高品質のシーフードが地域で生産され、食べられる。輸送費用もかからず、地域経済の活性化につながる可能性もある

フィンレス・フーズ社と細胞培養肉の可能性

フィンレス・フーズ社の共同創業者のマイケル・セルデンはバイオ化学、分子バイオ学のバックグランドを持ち、2014年にAtlanticの掲載されていたカブトガニの血を人工的につくる論文にヒントを得て、共同創業者のブライアン・ウィラスとシーフードの細胞培養の可能性について研究、様々な試行を重ねた。3年後に世界で初めて食用可能な人工魚肉をつくるのに成功した。その後、2018年に約3.8億円のシード資金を得て、2021年にはForbes誌のソーシャル・インパクト分野で注目される30歳未満の30人に選ばれた。

シーフードに関する需要はグローバルで拡大しており、漁業と海の資源を守り人の健康を維持しながら、拡大する需要に対応できるシーフードを供給していく必要がある。特に養殖が難しい魚には細胞培養による市場拡大の可能性がある。海の近くでなくても、新鮮な刺身の製造が可能である。また、日本のある地域でしか捕れず、これまで多くの人達が口にできなかった魚も、料理法とともに世界中の人に楽しんでもらうチャンスも生まれる。

フィンレス・フーズは10月にはこれまでのオフィスを改築した食品工場に引っ越す。米国では細胞培養肉に関する規制の枠組みがまだ存在せず、2018年から連邦政府が取り組んでいる。米国食品医薬品管理局も検討中で、フィンレス・フーズも規制作りの議論に加わっている。規制当局からの許可がおり次第、新しい工場からまずはレストラン数店に細胞培養クロマグロを供給開始する予定である。サステナビリティ、食の選択肢の拡大、地域経済活性化等、フィンレス・フーズの今後が期待される。